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とびだせどうぶつの森 QRコード置き場

ここにはおもに『とびだせどうぶつの森』でネオジオキャラになりきるためのマイデザイン用QRコードや、SNK関連の二次創作テキストなどを置いています。髪型や髪色、瞳の色については『とびだせどうぶつの森』の攻略Wikiを参照してください。

『ソワレとアルバ』 Act01

二次小説 KOF

 ふたりが初めて自分たちの金で家賃を払った部屋は、フェイトたちが住んでいるアパートの部屋よりも少し広い程度だった。
 ずいぶんと図体の大きくなったアルバとソワレがふたりで暮らしていくには、少しせまく感じるくらいの部屋だったが、広さそのものへの不満などなく、むしろ、ついに自分たちの力で自分たちの居場所を手にしたのだという達成感のほうがずっと大きかった。
 もちろん、このことでフェイトたちとの縁が切れたわけではない。ただ、アルバは、何から何までフェイトやチャンスの世話になっていたのでは、自分たちの枠を広げることができないと思ったのだ。
 古いアパートの、日当たりの悪い最上階の部屋から見えるスモッグにくすんだサウスタウンは、それでもアルバとソワレのふたりには、無限の夢と可能性が眠る新世界であった。
 それがふたりが18の時――。
 それからほどなくして、チャンスが姿を消した。
 ソワレにはその理由がよく判っていないようだったが、アルバは知っていた。
 よく手入れされた愛車とともにチャンスの最後の言葉を受け取ったアルバは、しかし、それを一生胸の奥にしまっておこうと思った。
 この新しい部屋からの風景を眺めながら、アルバはそう心に決めた。

      ◆◇◆◇◆

「――そっ、ソワレ~っ!」
「うぇ!?」
 あわただしく店に駆け込んできたノエルの素っ頓狂な声に驚いたのか、ソワレの手もとがかすかにぶれた。
「バーストだ。運がなかったな、ソワレ」
 狙いを大きく逸れてボードに刺さったダーツを一瞥し、ギャラガーがにやりと笑う。
「ちょっ――ち、違うって! 今のはノエルのせいだろ!?」
「ああ、完全にアクシンデントだったな。……だからいったろ、運がなかったってよ」
 軽くウインクしてソワレを押しのけたギャラガーは、落ち着いた動きでダーツを投じた。1本目を17トリプル、2本目を20シングル、3本目を15のダブルに突き立て、トータルでジャスト101。
「ブレイクだ。悪いな、ソワレ。約束通り1杯奢ってもらうぜ。――姐さん、ヒューガルデンひとつ」
 呆然とするソワレを尻目に、ギャラガーはカウンターの内側にいたシャーリィにベルギービールを大ジョッキでオーダーした。
「は~い、それじゃソワレにつけておくわね」
「――――」
 先攻さえ取れればまず負けない自信のあった101ゲームで思わぬ敗北を喫したソワレは、正気に立ち返るなりノエルを睨みつけ、その襟を引っ掴んだ。
「ノエル! おまえオレに恨みでもあんのか!? 今月オレがもう金がねえの知ってんだろ!?」
「ちょっ、ま、待て! 待ってくれって! そっ、それどころじゃねえんだよ!」
 荒い息をついてわめくノエルに、ソワレは眉をひそめて仲間たちと顔を見合わせた。ノエルは確かにいちいちオーバーなことをいうお調子者だが、いつもと様子が違う。
「と、とにかく1杯――み、水くれ……」
 カウンターにすがりつくようにしてスツールに腰を降ろしたノエルは、無口なデュードが用意してくれた冷たい水をひと息にあおった。
「いったい何があったってんだ、ノエル?」
「それがよ……ほら、オレ、この前クルマ買ったろ?」
「ああ、あの中古」
「中古っていうな! そりゃ中古には違いねえけど、オレがこつこつバイトして金を貯めて、カルロスんとこで――」
「ああ、はいはい、判ってるよ。……で、おまえのポンティアックがどうしたって?」
「それをよ、〈ブラーズ〉の連中が――」
「何?」
 それまで半分聞き流していたギャラガーが、ノエルの言葉に卒然と顔色を変えた。
「〈ブラーズ〉がどうした?」
「あいつら、オレのクルマをボコボコにしやがったんだよ! ホイールからカーステから、パクれるもんは全部持ってきやがって、あとはもうべこべこだよ!」
「確かに連中の仕業なのか?」
「まっ、間違いねえよ!」
〈ブラーズ〉は、ちょうどソワレたちと同じ年頃の、無鉄砲な若者たちが集まってできたストリートギャングである。“ファミリー”の息がかかったマフィアの予備軍ともいわれており、強盗まがいの真似や傷害事件も日常茶飯事という荒っぽい連中だった。
 もっとも、荒っぽいといってもしょせんは子供――と、フェイトあたりは最初から彼らを歯牙にもかけていない。〈ブラーズ〉のほうでも、さすがにフェイトほどのビッグネームにちょっかいを出すことはなかった。
 その〈ブラーズ〉が、知ってか知らずか、〈サンズ・オブ・フェイト〉の一員であるノエルの愛車のパーツを盗んだというのである。
「……厄介だな」
 ギャラガーはぽつりと呟いた。
「何がだよ!?」
「フェイトから、“ファミリー”とはトラブルを起こすなって釘を刺されてたのを忘れたのか?」
「“ファミリー”じゃねえって、〈ブラーズ〉だよ!」
「似たようなもんだろ。“ファミリー”がメジャーリーグなら〈ブラーズ〉はマイナーリーグだ。〈ブラーズ〉のチンピラどもは、いざとなりゃマフィアに泣きつくんだぜ?」
「泣きてえのはこっちだよっ!」
「勝手に泣いてろ。……どうせおまえのことだ、連中の目につくようなところに停めといたんだろ? 自業自得だよ」
〈サンズ・オブ・フェイト〉の若手たちの中では、アルバと並んでギャラガーがもっとも冷静で落ち着いている。それに、おっちょこちょいなところのあるノエルとは対照的な慎重居士で、フェイトたち目上の人間の言葉にも忠実だった。
「そういうなよ、ギャラガー」
 ギャラガーの前に置かれたベルギービールの泡をすすって、ソワレはこともなげにいい放った。
「――仲間じゃんか。取り返すの手伝ってやろうぜ」
「簡単にいうな、ソワレ――」
「ソワレ~!」
 ギャラガーを押しのけ、ノエルはソワレの手をしっかりと握り締めた。
「どっかの誰かさんとはいうことが違うよなあ。やっぱ持つべきものは親友だぜ!」
「そういうこと大声で叫ぶなよ、恥ずかしい。……まあ、おまえのクルマがないと、オレたちだってみんなでどっか繰り出そうって時に困るしさ。他人ごとじゃないっていうか、なあ?」
「おい、ソワレ」
 ギャラガーは自分のビールを奪い返し、ソワレを軽く睨みつけた。
「……おまえ、人の話を聞いていないのか?」
「は? 何が?」
「だから、〈ブラーズ〉とことをかまえるのはまずいって話だよ」
「それは向こうだって同じだろ? あいつらだって、別に〈サンズ・オブ・フェイト〉にケンカを売るつもりでノエルのクルマを狙ったわけじゃない。……たぶんな」
「ああ、そうだろうな。じゃあ、だとしたらどうだっていうんだ?」
「オレたちだって〈ブラーズ〉にケンカを売るつもりはないさ。ただ、連中に取られたモンを取り返しにいくだけだよ」
「だけどおまえ――」
 ギャラガーは口をつぐんでデュードを見やった。
  ネイティブアメリカンの血を引く寡黙な大男のデュードは、〈サンズ・オブ・フェイト〉の主要メンバーのひとりであると同時に、このシャーリィの店――『カ サブランカ』のバーテンとして、若い連中のよき相談役ともなっている。ギャラガーが意見を求めるようにデュードを顔色を窺ったのは、彼にソワレを止めてほ しかったからだろう。
 しかし、デュードは我関せずとばかりに沈黙をたもっている。
 代わりに、頬杖をついてにやにや笑っていたシャーリィが、火に油をそそぐようなことをいい出した。
「あとになってフェイトたちに泣きつくような真似さえしなければ、別にかまわないんじゃないの? おねえさん、やんちゃな子って好きだわ~」
「だとさ、ギャラガー」
 額に手を当てて溜息をつくギャラガーの肩を叩き、ソワレはテーブルを飛び越えた。
「――ハナシはついた! 行こうぜ、ノエル!」
「おまえがその気になってくれたのはありがたいけどよ、行くって……どこに行くんだ?」
「〈ブラーズ〉の溜り場になってる店とかって、知ってるヤツいるか?」
「……イーストサイドパーク近くの、高架下にあるジム・ヘンリーズって下品なバーだよ」
 答えたのはギャラガーだった。
「……おれは行かねぇからな」
「ダンケ、ギャラガー。それだけ判りゃあ充分だ」
 ノエルはギャラガーに軽く手を振り、ノエルたちとともに店を出た。
「――ジェイ、カルロスのところへ行ってレッカー車借りてきてくれ。ネオジオボウルの前で落ち合おうぜ」
「OK」
 ジェイとギグジーにクルマの手配を頼み、ソワレはノエルとともに夜の街を歩き出した。
「なあ、ソワレ」
 ネオンサインが色あざやかな影を落とす夜のペニーレーンを歩きながら、ノエルはソワレに尋ねた。
「ヤツらンとこに乗り込むにしてもよ、ちょいと心細くねェか?」
 ソワレといっしょに店を出てきたのは、トラブルを持ち込んだ当のノエルとジェイ、それにギグジーの、合わせて4人である。くだんの店に〈ブラーズ〉のメンバーがどれだけたむろしているのかは判らないが、ひとりやふたりということはあるまい。
「……アルバにも助っ人を頼んだほうがよくねえ?」
「そいつはダメだ」
 口笛を吹いていたソワレは即座に首を振った。
「こんなハナシ持ちかけたら、手伝ってくれるどころか逆に止められるぞ? どっちかっていったら、兄貴はギャラガーの意見が正しいっていうだろうからな」
「ああ……そういやそうだな」
「それに、兄貴はまだバイト中だ」
「へえ、まだ続けてたのか、中華屋のバイト」
「中華屋っていうな。きちんとしたレストランだよ」
 ソワレとふたりで暮らし始めてから、アルバは外ではたらくようになった。その一方で学校へも通い、いろいろなことを勉強している。最近のアルバは、少し意識して〈サンズ・オブ・フェイト〉の仲間たちとの距離を置いているようだった。
 革ジャンのポケットに手を突っ込み、ノエルは唇をとがらせた。
「……アルバのヤツ、このまま真人間になっちまうつもりなのか?」
「いやぁ、あれはそういうんじゃないな、たぶん」
「たぶん……って、おまえ、聞いてないのか?」
「前に聞いてみたけど、はぐらかすだけで教えてくんねえんだよ、兄貴のヤツ。……ただ、兄貴がフェイトたちと縁を切ろうなんて考えてないことだけは確かだな」
「どうしてそう断言できんだよ?」
「オレの兄貴だぜ? だから何となくオレには判るんだよ、そういうの」
「そういうもんかねえ」
「そういうもんだよ。……たぶん兄貴のことだから、インテリギャングでも目指してんじゃねえの?」
「おまえとは大違いだな」
「うるせえ」
 頬を苦笑にゆるめ、ソワレはノエルの尻を軽く蹴飛ばした。

      ◆◇◆◇◆

 馴染みの修理工のガレージから借りてきたレッカー車に乗り合わせ、ソワレたちがギャラガーに教えられた店へとやってきたのは、じきに日付も変わろうかという頃のことだった。
「……あれか?」
 少し離れたところでトラックを停めさせ、ソワレは屋根の上に立ち上がって目を凝らした。くだんの店の看板は、ネオンサインがあちこち切れかけていて、ときおり耳障りな音を立てながら明滅を繰り返していたが、なるほど、ジム・ヘンリーズと読める。
 店の前には数台のクルマが停まっていたが、どれもこれも持ち主の正気を疑うような悪趣味な改造車ばかりだった。
「薄汚れた外観といい、集まってくる連中のセンスといい……確かにあんまり上品な店には見えねえな」
「どうする、ソワレ?」
「先にオレとノエルで様子を見てくる」
「ふっ、ふたりだけで乗り込むのかよ!?」
「まずは確かめなきゃなんねーだろ? あのステキなおクルマの中に、ホントにノエルの大事なカーステレオを積んでるヤツがあるのかどうかをよ」
「あ、ああ、そうか……」
「もし見つけたら合図するから、ジェイとギグジーはこいつで乗りつけて、引きずってく準備をしといてくれ」
「だ、大丈夫か、それ……?」
「大丈夫だろ。あいつらだって、クルマ盗まれましたなんてケーサツに届け出たりしねえさ」
「そうじゃないって! いくらなんでもすぐにバレるだろ! 店の真ん前なんだぜ?」
「そこはまあ、このソワレさまに任せときなさいって」
 自信たっぷりに胸を叩いたソワレは、どこか不安そうなノエルをともない、幅広の道路を平然と横切っていった。
「ソワレ、おまえ、何も武器とか持ってきてねえの?」
「賞金の懸かったストリートファイトはベアナックルが基本だぜ?」
「ストリートファイトじゃねえだろ、今夜は」
「ははっ、トレーニングくらいにはなるかもな」
 アルバがアルバなりのやり方で生活費を稼いでいるのを見て、ソワレも自分の遊ぶ金くらいは自分で稼ごうと考えた末にたどり着いたのが、つまりはすこぶる単純なこの方法だった。アルバがバイトと学業に専念している間、ソワレは路上での喧嘩に明け暮れていたのである。
  そうした場数を数えきれないほど積んできているからか、まだはたちにもならないというのに、ソワレは修羅場での度胸がやけに据わっている。これから大人数 を相手にひと騒動やらかすかもしれないと判っているのに、まるでクラブに踊りにでもいくかのように、その足取りはあくまで軽やかだった。
「ついてけねェぜ、ったく……」
 手頃な長さの角材を胸に抱き、ノエルはぼやいた。
「どうにかしてくれって泣きついてきたのはおまえだろ? いまさらガタガタぬかすなよ」
「……わーったよ! いとしのカーステのためだ、オレも腹ァくくるぜ」
「それにしても……近所迷惑とか考えてねえのか、こいつら?」
 店の外にまであふれ出てくるジュークボックスの音に顔をしかめ、ソワレは大袈裟に溜息をついた。
「ま、おかげでちょっとくらい物音立ててもばれずにすみそうっちゃすみそうだけどな。……おい、ありそうか?」
「ちょっ、ま、待てって――」
 ノエルは店の前に停まっているオープンカーの運転席を順繰りに覗いていった。
「……あ!」
「あったか?」
「おう、たぶんこのインパラの持ち主が犯人だ!」
 ノエルはファイヤーパターンの描かれたシボレーのボンネットを殴りつけて毒づいた。
 確かに、クルマそのものはだいぶガタが来ているのに、ホイールとミラー、それにハンドルはきのう納車したばかりのような新品で、おまけにひどく不釣り合いなカーステレオまで積んでいる。
「間違いないか?」
「ああ。ホイールもステレオもオレのだ! 別に名前は書いてねえけど!」
「それじゃあさっさと片づけるとするか」
 指をぽきぽきと鳴らし、ソワレはノエルに何ごとか耳打ちすると、たったひとり臆する気配もなく店の中へと入っていった。

      ◆◇◆◇◆

 大音量で垂れ流されるブリティッシュ・ロックに、タバコとアルコール、それにおそらくマリファナの臭い――。
 ジム・ヘンリーズの店に一歩足を踏み入れたソワレは、あたりを支配する不健康な空気に眉をひそめた。
  店の外観にふさわしく、薄暗い店内はお世辞に清潔とはいえず、そこにたむろしている酔客たちも、見るからにたちの悪そうな連中ばかりだった。ただ、〈ブ ラーズ〉のメンバーの行きつけだというのは本当のことらしく、ソワレとそう変わらない年頃の若者たちの姿も少なくなかった。
 自分を品定めするような視線を超然と受け流し、逆に店内を見回しながら、ソワレは後ろ手にドアを閉めた。
「――ちょっと聞きたいんだけど、いいかい?」
「あ?」
「ちょっと聞きたいんだけどいいかい!?」
 ジュークボックスの音に負けないように、ソワレは声を張り上げて繰り返した。
「何だてめェは?」
 キューを手にビリヤード台に寄りかかっていたスキンヘッドが、口もとににやついた笑みを浮かべて近づいてきた。年齢でいえばソワレよりふたつ3つは年上、身長では頭ひとつは大きい。いかにも腕っ節に自信のありそうなタイプだった。
「今夜は貸切なんだよ。目障りだ、消えな」
「その前にひとつ聞きたいことがあるんだけどな」
 ソワレは大男を見上げて目を細めた。
 ざっと見渡したところ、店内にいるのはカウンターの内側のバーテンを含めて全部で7人。そのうち、一番腕が立ちそうなのが目の前の大男で、ほかの連中もそれなりに場数は踏んでいるようだが、ソワレにとってはその他大勢でしかない。
 頭数を確認したソワレは、親指を立てて背後を指差した。
「――表の悪趣味なインパラ、ありゃァ誰のだい?」
 悪趣味と聞いて、スキンヘッドのタトゥーの入った頭にみしりと血管が浮き出た。どうやらこの男の愛車だったらしい。
 スキンヘッドの男が怒りに顔色を変えたのにも気づかないふりをして、ソワレは平然と続けた。
「色は最悪、おまけに4ドアだろ? 見てるだけで気分が悪くなってくるんだ。あんなモン道路沿いの駐車場に停めといたら事故が起こるぜ。さっさと中古屋に持ってけよ。……いるんだろ、アレの持ち主?」
「てめええ!」
 スキンヘッドがキューをへし折ってソワレに掴みかかってきた。怒りのあまりに血が昇り、タトゥーの柄も判らなくなるほどに頭が高潮している。
 だが、冷静さを失ったパワーファイターほど御しやすいものはない。
「はいはい」
 襟もとへ伸びてきた太い腕を身を沈めてかわし、ソワレはスキンヘッドの足を刈った。
「うお――」
 バランスを崩して前にのめりそうになったところへ、軽く背を押してやる。スキンヘッドはそのまま数歩よろめき、顔面から床に突っ込んだ。
「――ぶむ!」
「へっ……ざまァねえな」
「このガキ!!」
 それまでにやにやしながら成り行きを見守っていた男たちが、腰に手を伸ばしてスツールから飛び降りた。
「こういうところでそんなもん振り回すとはオツムが弱いね、あんたら。お仲間をブッ叩かないようにせいぜい気をつけな!」
 腰に巻いていたチェーンを引き抜いた男を見据え、ソワレは床を蹴った。
「オラァ!」
 できそこないのオジー・オズボーンがソワレの脳天目がけてチェーンを振り降ろしたが、ソワレはそれをかわして軽やかにビリヤード台の上へと飛び、片手をついて身体を旋回させた。
「あらよっと!」
 跳馬を思わせる動きから繰り出された蹴りが、オジーの側頭部を捉えて派手に吹っ飛ばした。
「ぐがっ」
「もうちょいカラダ鍛えなよ、おにーさん!」
 軽くウインクしてビリヤード台から飛び降りたソワレは、しかし、ほかの男たちとことを構えることなく、さっさと店から逃げ出した。
「てめっ――!?」
「待ちやがれ!」
 一瞬呆気に取られていた男たちが、ビールの空き瓶やナイフを手にしてソワレを追う。
「そうそう、たまにゃ外の空気も吸ったほうがいいぜ。……ただ、足元には気をつけなよ?」
「!?」
 ソワレを追って店の外に飛び出した男たちの脛を、ドアの脇に身をひそめていたノエルが思い切り角材でひっぱたいた。
「――――」
 声にならない悲鳴をほとばしらせ、男たちがつんのめる。
「連帯責任だ! 文句があるならあのスキンヘッドにいうんだな!」
 男たちの顎や首筋に鋭い蹴りを叩き込んでまたたく間に昏倒させたソワレは、店の奥にいるバーテンがどこかに電話をかけているのを見て、手のしびれに泣きそうな顔をしているノエルを引っ張った。
「逃げるぞ、ノエル!」
「お、おう!」
「早くしろ、ふたりとも!」
 ソワレが店の中で暴れている間に、ジェイとギグジーはインパラのフロントタイヤをレッカー車のリフトに固定していた。
「――出すぞ!」
 ジェイが助手席に乗り込むのを待って、ギグジーがレッカー車のアクセルを踏み込む。
「ちょっ――ま、まだ乗ってねえよ!」
「しゃべってるヒマがあったら乗れよ!」
「おわっ!?」
 動き始めたインパラの後部座席にノエルを蹴り込むと、ソワレもまた助手席に飛び込んだ。
 レッカー移動とは思えない速さで引きずられていくインパラを、店から出てきたバーテンが、何か大声で叫びながら見送っている。ミラー越しにそれを見ていたソワレは、シートに背中を預けて深呼吸し、ノエルを振り返った。
「どうだ、ノエル?」
「……何がだよ?」
「これでおまえの愛車から盗まれたモンは全部戻ってきたぜ。ボコボコにされたボディは……そっちはまあ、このインパラをばらしてパーツ屋に売れば、多少の穴埋めにはなるんじゃねえの?」
「……その前に、バァさんの診療所に寄ってくれ」
「あン? どっかケガでもしたのか?」
「……ムチャクチャな野郎にいきなり背後から蹴り飛ばされたせいか、寝違えたみてえに首が痛ェんだよ。このぶんじゃ、あしたはマジで首が回らねえぞ」
 前後の座席の間の空間に、上下さかさまにひっくり返った状態ではまり込んでしまったノエルが、呑気に笑うソワレをじろりと睨みつけた。

      ◆◇◆◇◆

 受話器を置き、フェイトは大袈裟な溜息をついた。
「――どうしたって、あの子たち?」
 カウンターに戻ってきたフェイトの前に、シャーリィがビールのグラスを置く。すでにデュードとギャラガーの姿はなく、照明を暗く落とされた店の中には、フェイトとシャーリィしかいない。
「ノエルが首の筋を違えただけで、あとはみんな無事だそうだ」
「よかったじゃない」
「……いいもんか」
 グラスの半分ほどを一気に干したフェイトは、珍しく渋い表情で舌打ちしている。
「〈ブラーズ〉の後ろには“ファミリー”がいる。もしこれをきっかけに、ギャング同士の抗争が激化でもしたら――」
「そうしないために、あなたみたいな大人がいるんじゃないの?」
「それをいうなら、まずあんたがソワレたちを止めてくれてもよかったんじゃないのか? それをあんたは、逆にソワレたちをあおるようなことをいったらしいな?」
 フェイトが眉をひそめてじろりと睨んだが、シャーリィは薄い笑みを崩そうとはしない。
「なら聞くけど、殴られてもおとなしくしてさえいれば、向こうはそのうち友好的になってくれるのかしら?」
「そうはいわない。だが、報復合戦が横行するようになれば、ようやく落ち着きを取り戻し始めた街が、また騒然としてくる」
 そうなれば、ことは〈サンズ・オブ・フェイト〉と〈ブラーズ〉だけの問題ではない。この街に住むすべての人々が、多かれ少なかれ迷惑をこうむることになるだろう。
 シャーリィはタバコに火をつけ、白い煙をくゆらせた。
「もし――“ファミリー”の人間が、チャンスの愛車に同じことをしたら、あなたならどうする?」
「…………」
 今はもうこの街にいない親友の名を聞いて、フェイトは眉間にしわを寄せた。
「俺がどうこうするまでもないさ。あいつなら、自分のことは自分で始末をつける」
「でも、そうと判っていても、あなたならチャンスより先に動いていたんじゃない? 昔のあなたは、リーダーである自分の立場もわきまえずに、仲間のために率先して動く男だったって聞いてるけど」
「それは……もう何年も前の話だ」
「いい傾向だわ。つまり、今のあなたにはリーダーとしての自覚があるということよね」
「からかわないでくれ」
 フェイトはビールを飲み干して苦笑した。
「そうやって昔のことを持ち出されると、俺も反論のしようがないな。……確かにあんたのいう通りかもしれない」
「でしょ? 若い頃のあなたを見て育った子たちに、あれこれ説教しても無駄よ、無駄。だったら腹をくくって、やんちゃ坊主どもの尻拭いでも考えることね」
「さすがに苦労人は達観してるな」
 ポケットから抜き出した数枚の紙幣をカウンターに置き、その上に空になったグラスを乗せて、フェイトはスツールを降りた。
「ビール一杯の代金にしては多すぎるわ。チップでもくれたつもり?」
「どうせあいつらのことだ、ツケが溜まってるんじゃないのか?」
「あの子たちの代わりに払ってくれるわけ? でも残念ね。だとしたら、逆にこれっぽっちじゃ足りないわ」
「……今度あいつらが来たら、アルバを見習ってもう少し真面目にはたらけといっておいてくれ」
 年上の女友達に軽く手を振り、フェイトは店を出ていった。

      ◆◇◆◇◆

 もう日も暮れようかという頃になって、ソワレはのっそりとベッドから身を起こした。ドライヤーの音がしなかったら、星がちらつき始めてもまだ寝ていたかもしれない。
 大学での勉強を終えてアパートに戻ってきたアルバが、今また身だしなみをととのえているのは、これからバイトに出かけるからだった。
 平日は朝早くから夕方まで大学に通い、そのあとは深夜までバイト。帰宅後には勉強や読書をして、次の日にはまた大学へ――とてもストイックな生活サイクルだとソワレは思う。たとえこの半分の密度のスケジュールでも、ソワレでは3日と続くまい。
「……兄貴の生真面目さは一種の才能だな、こりゃ――」
 寝癖のついた頭をかき回しながら呟くと、ちょうど洗面所から出てきたアルバがそれを聞きつけたのか、怪訝そうに首をかしげた。
「何かいったか、ソワレ?」
「別に」
 ベッドを飛び降りて大きく伸びをし、冷蔵庫の中をあさる。
 ミネラルウォーターで喉を潤す弟に、アルバがネクタイを締めながら尋ねた。
「――みんなの様子はどうだ、最近?」
「相変わらずだよ。バカばっかやってさ」
「それが楽しいんだろう?」
「まあね」
 口もとを大雑把にぬぐって苦笑したソワレは、ふと思い出したように聞き返した。
「――そういや兄貴は、最近はぜんぜんフェイトたちとは連絡取ってねえのか?」
「ああ」
「まさかとは思うけどよ……兄貴、このままフェイトたちと縁を切るなんてことは――」
「いつかは戻るさ」
 どこに――とはいわなかったが、仲間たちのもとへ戻るという意味だということは、ソワレにも判った。
「ただ、それまでにいろいろと学ばなければならないことがある。今はそういう時間だというだけさ」
「……ガッコに行ってねェオレたちにゃ耳の痛ぇハナシだな」
「学校で学ぶことだけがすべてとはかぎらない。おまえはおまえで、ストリートでしか学べないことを学べばいい。……だいたい、私たちはふたりいるのに、ふたりともまったく同じことしか学ばないのでは面白くないだろう?」
「そりゃそうだ。……ってか、オレが兄貴と同じことを勉強しようったって、そもそもモチベーションが維持できねえよ」
「ならそれでいいんじゃないか? 適材適所さ」
 アルバはソワレに軽くウインクしてバイトに出かけた。
 それからだらだらと身支度をととのえ、ソワレもアパートを出た。

                              ――つづく――