とびだせどうぶつの森 QRコード置き場

ここにはおもに『とびだせどうぶつの森』でネオジオキャラになりきるためのマイデザイン用QRコードや、SNK関連の二次創作テキストなどを置いています。髪型や髪色、瞳の色については『とびだせどうぶつの森』の攻略Wikiを参照してください。

『御曹司御乱心』


 こちらに来てから調達したブガッティを、少し離れた路上の駐車スペースに停めたのは、何か思惑があってのことというより、単に、自分が運転して帰るクルマのキーを、ほんのいっときとはいえ、ホテルマンに預けることをよしとしない用心深さのせいだった。
「存外に冷えるな……地中海に面した国といっても、北イタリアはこんなものか」
 ブガッティを降りて黒いトレンチコートをはおった如月影二は、サングラスを押し上げて歩き出した。

  ここから歩いて3分とかからないところに、待ち合わせ場所として指定されたホテルがある。クリスマスシーズンの宵が、界隈の賑わしさに拍車をかけているようだった。
 左右に目を配りつつ、広いホテルのロビーに足を踏み入れる。寒い屋外に慣れかけていた肌が、あたたかな室内の空気に触れて一気にゆるむような心地がしたが、それでも張り詰めた意識が弛緩することはない。サングラスに隠された影二の双眸は、このロビーに居合わせたすべての人間を、一瞬のうちに危険か危険でないか――その二種類に大別してのけた。
「……ふん」
 目つきの鋭い、明らかに堅気ではない男たちが何人かいたが、おそらくは要人警護を生業とする手合いだろう。このグレードのホテルならば、そうした人間が宿泊していてもおかしくはない。
 だが、差し当たってきょうの用事とは関係ない。必要以上に視線をそそいでいらぬ警戒心をいだかせることのないよう、影二は観葉植物の陰に隠れる位置を選んでソファに腰を降ろした。
 5階まで吹き抜けになっているロビーをさりげなく見回し、現在の時刻を確認する。ちょうど約束の時間をすぎたところだった。もしあと5分待って依頼人が現れなければ、すみやかに立ち去るべきだろう。影二の直感が、ここに長居するのは危険だと告げていた。
 そんな一瞬の心の間隙に、その男は踏み込んできた。
「――――」
 自分と背中合わせになるソファに腰を降ろした男が只者ではないことは、ほとんど足音がしなかったことからもすぐに判った。影二は振り返って相手を確かめる代わりに、コートの懐に右手を差し入れ、軽く殺気を飛ばしてみた。
「……そう警戒しないでもらいたい、シニョール・キサラギ
 影二が懐で短刀を握り締めていることを知ってか知らずか、背後の男は殺気に反応してすぐに声をかけてきた。
「拙者の名を知っているということは……おぬしが依頼人か? 何者だ?」
「私はカーマン・コール――ガルシア財団の者だ」
「何?」
「このホテルは半年前から財団の傘下に入っている。……知らなかったかね?」
「そのくらいは把握している。ただ、財団の人間が拙者に何用かと思ったまでのこと……」
 ガルシア財団の御曹司ロバート・ガルシアとは、以前、とある格闘大会で拳を交えたことがある。ロバートが極限流空手の使い手だということを除けば、特に遺恨のある相手ではない。少なくとも、影二のほうではそう考えている。
 だから、そのガルシア財団の人間が、こちらの素性を承知の上でコンタクトしてきたということが、影二にはいささかいぶかしく思えた。昨今、影二のもとに舞い込んでくる依頼といえば、暗殺や産業スパイの真似事といった、おおむね非合法なものばかりである。世界に名だたる大財閥が、かならずしもクリーンなやり方しかしない――などとは影二も考えてはいない。しかし、グレーな領分の仕事をさせるのであれば、それ専門の人員をかかえていたとしてもおかしくなかった。
 そのことについて、ここで腹の探り合いをしていても時間の無駄だろう。影二はサングラスをはずし、振り返ることなくカーマンに尋ねた。
「依頼の件、聞かせてもらおう」
「確かに、親しげに世間話などする間柄でもないな。……いいだろう、来たまえ」
「何?」
「依頼人のところへ案内しよう」
「……いいだろう」
 影二はソファから腰を上げ、背後を振り返った。
「最上階までおつき合いいただこうか」
 そうつけ足したカーマン・コールは、口髭をたくわえた長身の男だった。一見するとやり手のビジネスマン風だが、影二よりひと回り体格がよく、その立ち姿からも、何かしらの格闘技の心得があるのは明白だった。
「最上階のロイヤルスイートをわざわざ押さえるということは……待ち人はロバート・ガルシア本人ということか」
「面倒だと思うかもしれないが、我慢してもらいたい。あのぼうやも、イタリアではなかなかの有名人だ。そのへんのカフェテリアで商談というわけにもいかないのでね」
 せまい個室の中でカーマンが苦笑する。この直通エレベーターなら、最上階まで1分もかからないが、さりとてこの眼光鋭い男といっしょでは、一瞬たりとも気は抜けない。もっとも、カーマンのほうでも同じようなことを考えていると思えば、口もとがわずかにゆるむのも仕方のないことだった。
「何かおかしかったか?」
「いや……いかにもセレブの気苦労だなと思っただけだ」
「確かにな……」
 カーマンは大きく嘆息し、肩を落とした。
「……それにつき合わされるきみに同情を禁じえないよ」
「何?」
「とにかく、詳しい話は本人に聞いてくれ。本心では、私も馬鹿馬鹿しいと思っているのだが……」
 カーマンの言葉には、いろいろと思わせ振りなものが含まれていたが、影二がそのことを踏み込んで聞き返すより先に、エレベーターが最上階に到着してしまった。
「私からひと言いうとすれば、だ」
 足音をすべて吸い込んでしまう毛足の長い絨毯を踏んで、スイートルームのドアの前に立ったカーマンは、肩越しに影二を見やって呟いた。
「――今回の依頼は拍子抜けするほどに簡単なものだ。だが、シニョールでなければ務まるまい。個人的には……このままドアを開けずに立ち去ることをお勧めするが」
「意味ありげな物言いはそのへんにしてもらおうか。拙者はこれでもプロ……引き受けた仕事はやり遂げるのが信条だ。たとえそれが、極限流の人間からの依頼であろうとな」
「……事前のリサーチ通りの人物らしいな。どうやら悲劇は避けられないらしい」
 カーマンは小さくかぶりを振り、カードキーでロックをはずしてドアを開けた。
「よぉ」
 カーマンに続いて部屋に入ってきた影二を、ロバート・ガルシアは、まるで旧知の仲に対してそうするように、大仰な仕種で出迎えた。
「――久しぶりやな、ニンジャのにいちゃん。元気にしとったか?」
「……仕事の話を聞こうか」
 あっけらかんとしたロバートの問いかけを無視し、影二は本題を切り出した。
「如月流のなんたるかを知りながら、その上で拙者に仕事を依頼するとは興味深い……誰を殺せばいい?」
「相変わらず物騒なやっちゃな」
 イタリア製のスーツを嫌味なく着こなしたロバートは、苦笑混じりに影二にソファを勧めた。
「――せやけどまあ、いきなり斬りかかられたりせぇへんかっただけでもマシやな」
「ふん……拙者の見たところ、いまや極限流最強はタクマ・サカザキにあらず、息子のリョウ・サカザキよ。いわんや、実戦を離れて久しいおぬしなど眼中にない」
「トレーニング不足っちゅうのは確かに否定できひんけど、まあええわ、最強がどうとか極限流がどうとかいうハナシちゃうしな。きょうは純粋にビジネスのハナシや」
 ロバートは影二の向かいに腰を降ろし、両手を組み合わせて小さく笑った。
「さっきのいいようからして……アレやろ、にいちゃんは今もニンジャなんやろ?」
「……どういう意図でそんなことを尋ねる?」
「つまりやな、ニンジャをやめたりしてへんかっちゅうことをな、確認したいんや」
「忍とはそう簡単になったりやめたりできるものではない」
「ほならええわ、やってもらおか」
 影二は目を細めてロバートを睨みつけた。
「……具体的な話が見えてこないが、肝心の依頼の件はどうなっている?」
「要するにや……にいちゃんもユリちゃんのことは覚えとるやろ?」
「タクマの娘のことか」
 そう答えつつ、影二はカーマンの動きに注視していた。いつの間にか、隣の部屋から三脚とビデオカメラを運び込み、部屋の中央にセットし始めていたのである。
「なぜ私がこんなことをしなければならんのか……まったくもって世の中とは不条理なものだ」
 小声でぼやきながら、カーマンはてきぱきとカメラをセッティングしていく。影二はそれを指差し、ロバートに尋ねた。
「……あれは何だ? 何をするつもりだ?」
「せやからな、ユリちゃんに頼まれてん」
「何を――!?」
 影二ははっと目を見開いてソファの背に手をかけて飛びのいた。
「――貴様、何のつもりだ!?」
「ほんのちょっと、な? メイクや、メイク」
 そういって身を乗り出したロバートの手には、赤いサインペンが握られていた。
「これでな、にいちゃんのほっぺたんトコに、ぐるぐる~って渦巻き書くやろ? でもって、カメラに向かって『ニンニン』とかゆうてもらいたいねん。『ニンともカンとも』っちゅうのもええなあ」
「はああ!?」
 つねに冷静であれ、寡黙であれと先代からいましめられてきたはずの影二が、こらえきれずに間の抜けた声をあげてしまった。驚き半分、呆れ半分、まさか極限流の人間が自分をイタリアまで呼び出し、そのようなことをいってくるとは、影二にとっても完全に想定外だった。
「貴様、乱心したか、ロバート・ガルシア!? ――ぬ!?」
 コートの内側に手を差し入れようとした影二を、カーマンが背後から押さえ込んだ。
「だから私がいっただろう? 可哀相だとは思うが、忠告を無視してここまで来てしまった以上、いさぎよくロバートぼうやのお遊びにつき合ってもらおうか。我が財団の未来の後継者は、これといって欠点のない優秀な男だが、唯一、シニョリーナ・サカザキに甘いのがどうにもな……」
「ぬっ、ぐ――」
 影二はカーマンの腕を振りほどこうともがいたが、どうやらカーマンは組み技の達人らしく、そう簡単には脱け出せそうにない。
 その影二の前に、サインペンを手にしたロバートが迫ってきた。
「ふっふっふっ……にいちゃんも日本人ならそないジタバタせんほうがええで? 日本男児なら覚悟を決めてドーンと構えたってや」
「ばっ……ふざけるな、貴様! そっ、そのような真似をして、何の意味がある!?」
「意味なんぞ知らんけど、ユリちゃんがにいちゃんに『ニンニン』ゆうてもらいたいっちゅうとるんや、その願いをかなえてやるんがワイの務めやろ」
「はああ!?」
 判らない。ロバートのいっていることがまったく判らない。
 確かに以前、リョウの妹と顔を合わせた時、まじまじと影二を見て、「ニンニンていってみて!」などと藪から棒な頼みごとをされたことがあった。それになんの意味があるのか判らず、そもそも慣れ合うような間柄でもないために黙殺したが、まさか今になってそれを、しかもロバート・ガルシアが蒸し返してくるとは思わなかった。
「ま、このお宝映像がワイからユリちゃんへのクリスマスプレゼントっちゅうわけや。ユリちゃんてなあ、今どきの子にしてはしっかりしとるさかい、金に飽かして用意したプレゼントなんぞよう受け取ってくれんし、ここはワイの手作りっちゅうか――」
「おい、ロバート、のろけている暇はないぞ。そうそう長い間は押さえつけていられん」
「おっと、せやったな。もうちょいがんばっといてんか、カーマン」
「ぬおおおおお……! やめろおおおおおおお!」
 だらだらと脂汗を流しながら、影二は四肢に力を込めた。だが、それでもカーマンの拘束から逃れることはできない。
 間近に迫ったロバートが、にやりと笑ってささやいた。
「これもビジネスや……あんじょう気張って『ニンニン』ゆうたってや~」
「くっ、こ、殺せ! いっそ殺せええええ――!」

      ◆◇◆◇◆

「――――」
 はっと目を見開き、影二は布団を蹴飛ばして身を起こした。
 汗をぬぐうのも忘れてあたりを見回せば、そこはいつもの部屋――影二の寝室だった。おそらくまだ夜が明けたばかりなのだろう、障子戸の向こうはまだ薄暗く、真冬の寒さが染み入ってくるかのようだった。
「……夢か……」
 安堵の吐息をもらし、影二は目もとを手でおおった。
 ほどなく、長い廊下をひそやかな足音が近づいてくるのが聞こえた。
「――若」
「どうなさいました、御曹司?」
 障子の向こうに、膝を折った影がふたつ三つ並んだ。如月流忍術の次期総帥に指名されてから、影二は配下の者たちからは若、あるいは御曹司と呼ばれている。いささか面映ゆくはあったが、それも一族をみちびく者としては避けられぬことなのだと、影二は納得していた。
 影二は背筋を伸ばし、ことさらに落ち着いた声で答えた。
「……別にたいしたことではない。ただ、な――」
 影二が言葉を濁して悪夢にうなされたことをごまかそうとしていると、またあらたに配下の者が廊下をやってきた。
「御曹司」
「どうした? 何かあったのか?」
「御曹司に会いたいとおっしゃるお客人が」
「何? こんな時間にか?」
 如月家の屋敷は、まさしく深山幽谷のたとえ通りの、人里を離れた険しい山中にある。もっとも近い集落からでも、ローカルバスでおよそ1時間、そこから徒歩で背の高い杉並木に縁取られた古道をひたすら進み、さらに古刹を思わせる数百段の石段を登って、ようやくこの屋敷の門前までたどり着くことができるのである。かなり身体を鍛えた者でも、ここを訪ねるのはたやすいことではない。
 その如月家の屋敷に、この払暁、影二を名指しして訪ねてくるとは果たして何者か――。
ロバート・ガルシア、と名乗っておりますが――」
「追い返せ!」
「は?」
「今すぐ追い返せ! 塩をまいておけ! 験が悪い!」
「はっ、はいっ!」
 やにわに立ち上がって声を荒げ始めた影二の剣幕に驚いたように、障子の向こうの男たちがそそくさと去っていく。
「はぁ、はぁ、はぁ……まったく、縁起でもない夢を見た……」
 しばらく荒い息をついていた影二は、髪と襟もとの乱れをととのえると、障子戸を開けて冷たい夜明けの空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
「それもこれも、忌々しい極限流のせいだ。来年こそ決着をつけてやる。……首を洗って待っているがいい、リョウ・サカザキ!」
 またひとつ年を取ったその日、如月影二は、決意もあらたに大きなくしゃみを連発し、年越しまでの一週間を寝てすごすことになったという。

      ◆◇◆◇◆

「……何なんや、いったい? ニンジャっちゅうのは手裏剣を投げるんとちゃうんか? いきなり塩なんぞ投げつけてきよってからに……」
 山の麓に停めたダッジ・ナイトロのところまで戻ってきたロバート・ガルシアは、全身を揺すって塩を振るい落とすと、大仰に嘆息した。
「そろそろ次のKOFも開催されることやし、リョウと戦う前の腕試しにと思ったんやけど……何や虫のいどころでも悪かったんか? あのニンジャのにいちゃんなら、こっちから申し込んだ勝負を蹴るはずないと思ってたんやけどな」
 如月家を訪ねた時にはまだ山の稜線にも顔を出していなかった朝日が、すでに低い空へと昇っている。日本の冬らしく、よく晴れた一日になりそうだった。
「――本番までリョウには手のうちさらしとうなかったんやけど、ま、しゃあないわ。アメリカ戻って本部道場で稽古させてもらうしかないやろなあ」
 軽く身体をほぐし、ロバートはダッジのシートに腰を据えた。
 大会前に実戦的な稽古をしたくて如月影二を相手に選んだが、あるいは影二のほうでも、今度の大会に参戦する腹づもりでいるのかもしれない。ならば門前払いを食らったのもうなずける。
 どちらにしろ、対戦がかなわないのであれば、日本に留まる理由はない。日本にはほかに何人もの格闘家たちがいるが、おそらく彼らも今度の大会には当然のように参戦してくるだろうし、ならば気安く腕試しに応じてもらえるとも思えなかった。
「――あ、カーマンか?」
 ダッジのエンジンをかけ、ヒーターの温度を上げたロバートは、衛星電話でカーマンを呼び出し、プライベートジェットの手配を頼んだ。
「せや、きょう中には発ちたいよってな。……うん、頼むわ」
 手短に通話を終え、ロバートはダッジをスタートさせた。悪路をものともしないSUVが、森閑とした山中にディーセルエンジン独特の排気音をこだまさせて走っていく。
 ジェット機を手配した最寄りの国際空港までは、どんなに飛ばしても半日はかかるだろう。だが、すでにロバートの心は、遠く太平洋の彼方へと飛んでいた。
                                ――完――