とびだせどうぶつの森 QRコード置き場

ここにはおもに『とびだせどうぶつの森』でネオジオキャラになりきるためのマイデザイン用QRコードや、SNK関連の二次創作テキストなどを置いています。髪型や髪色、瞳の色については『とびだせどうぶつの森』の攻略Wikiを参照してください。

『気の利かない男』

 

 優勝決定戦直後の興奮冷めやらぬ超満員のスタジアムに、色あざやかな紙吹雪が舞い散っている。モニターを通して見るかぎり、誰も席を立って帰ろうとはしていない。観客たちの歓声は今もやむことなく、このミックスゾーンにまで届いていた。間もなくおこなわれる勝利者インタビューを、誰もが心待ちにしているのだろう。
 ざっと汗をぬぐい、メイクを直した3人が、無数のスポンサー名が並ぶバックパネルの前に現れると、おびただしい数のフラッシュがいっせいに焚かれた。ビデオカメラを通してスタジアムのオーロラビジョンに映し出された映像は、同時に、全世界に向けても放送されている。それを思うと、キングは居心地の悪さを感じないではいられなかった。

  そんなチームリーダーとは対照的に、舞とユリはテンションを上げていた。もともとカメラに物怖じするような娘たちではなし、むしろここぞとばかりに愛嬌を振りまいている。
「――優勝おめでとうございます! まずは激闘を終えた今の率直な感想をひと言!」
「あー……」
 女性インタビュアーに唐突にマイクを向けられ、キングは言葉に窮した。
 もともとキングはこの手のインタビューが得意ではないし、好きでもない。マスコミ相手にしゃべりすぎると、いずれバウンサー時代の話題まで持ち出されかねないからである。自分ひとりならまだいいが、弟にまで好奇の視線が向けられるのは何としても避けたかった。
 どうにか当たり障りのない受け答えをしようと、いまさらのようにキングが言葉を捜していると、横から舞が顔を出してきた。
「今の感想? 決まってるじゃない、もう最高! 最高のひと言に尽きるわね!」
「うんうん、やっぱり世界の大舞台で勝つのって気持ちいいよねー!」
 すぐさまユリも舞の言葉に同調する。
 そこにインタビュアーがさらに質問をぶつけてきた。
「――今回はほかにも多くの女性格闘家たちが参戦していましたが、フタを開けてみればあなたがたの圧勝でした。勝利の鍵はどこにあったのでしょう?」
「そうね……いろいろとあると思うけど、結局は経験の差じゃないの?」
 舞は扇子で口もとを隠して笑った。込み上げてくる喜びを抑えきれないといった表情をしている。
「――あの子たちとは踏んできた場数が違うのよ、場数が!」
「みんないい線行ってたとは思うけどねー。ひとつアドバイスするならぁ、極限流に入門して一から鍛え直してみたら? ってトコかな?」
 ちゃっかり道場のアピールも忘れないユリに、キングはそっぽを向いて苦笑した。
「強さと美しさを兼ね備えたあなたがたは、いまや世の女性たちにとってあこがれの存在です。その両者を維持し続けるための、秘訣のようなものはあるのでしょうか? いかがです、キングさん?」
「え? ひ、秘訣っていわれてもねえ……」
 ふたたび言葉に詰まったキングを助けようと思ったわけでもないのだろうが、すぐにまた舞が口をはさんできた。
「それはもちろん愛よ! 愛がわたしたちを強く美しくさせるの!」
「は、ぁ……?」
 そっと瞳を伏せ、陶然とした口調で語る舞の姿に、今度はキングだけでなく、インタビュアーまでがぽかんとしている。舞の周囲にピンク色のハートマークが咲き乱れているのが目に見えるようだった。
「あ、愛の力……ですか……?」
「うーん……舞ちゃんみたいに愛の力って断言しちゃうのは恥ずかしいけど――でも、そういうのって確かにあるかも。恋人がどうのってだけじゃなくて、家族とか友達とか仲間とか……すぐそばに、おたがいを高め合える人がいると、不思議とがんばれちゃうかな、わたしも」
 腕組みをして考え込んでいたユリが、神妙そうな表情でそう答えると、まるで夢から醒めたかのように、舞がじとりとしたまなざしでユリを睨んだ。
「……ちょっと、ユリちゃん? 何だかさりげなく自分の好感度を上げようとしてない?」
「えー? 別にそんなつもりないけど、どうしてそう思うわけ?」
「だって、そんないい子ちゃんな受け答えしちゃって……これじゃひとりでハートマーク散らしてるわたしがバカみたいじゃないの」
「え~? そんなことないよ、舞ちゃんらしいよ、うん!」
「……やっぱりわたしのことバカにしてる?」
「だからそんなことないって~。――あ、ほらほら、カメラカメラ! 全世界生中継!」
「え? あ、あらやだ、おほほほほほ!」
 舞とユリはすぐさまふたり並んで笑顔を作り、カメラに向かってポーズを取り始めた。ふたたび激しいフラッシュが焚かれ、網膜にちりちりとしたかすかな痛みが走る。
「やれやれ……」
 ひとり蚊帳の外に置かれたキングは、大仰に肩をすくめると、カメラがふたりを向いている隙にその場から立ち去った。
「そ、それではここで、個性の強いメンバーを率いて過酷なトーナメントを勝ち抜いたチームリーダーのキングさんにも何かひと言……あ、あれ? キングさん?」
 インタビュアーの困惑したその声を、キングは、館内スピーカーを通して耳にしたが、いまさらあの華やかな場に戻る気にはなれなかった。

      ◆◇◆◇◆

 人目を避けるように、関係者用のエントランスから外へ出たキングは、蝶ネクタイをはずしてひと息ついた。
 じきに日が暮れる。まばゆくライトアップされたステージに慣れきった目には、沈みゆく茜色の夕陽がなぜか新鮮に映った。
「……ふぅ」
 確かに身体の痛みや疲労はあった。だが、それが今は心地いい。バウンサーとして人に雇われていた頃にはなかった感覚だった。
 軽く首を回して階段を降りていこうとしたキングは、路上に立つ人影に気づいて目を丸くした。
「――いいのか? 仮にも優勝チームのリーダーが記者会見を放り出したりして?」
 革ジャン姿のリョウが、街灯に寄りかかって手を振っていた。
「中継、観てたのかい?」
「ああ。気づいたら画面からおまえの姿が消えていたから、これは裏から逃げ出したなと思って、ここで張ってた」
「……苦手なんだよ、ああいう派手なのはさ」
「その気持ちは判らんでもないが――ともあれ、優勝おめでとう」
 そういって笑ったリョウは、かかげた手を拳の形にぐっと握り締めた。
「――じゃあ、地味に祝杯といくか? 俺のおごりで」
「ユリを迎えにきたんじゃないのかい?」
「俺が迎えにいく必要なんてないだろ。今頃はフェラーリにバラの花束を満載した色男が、これ見よがしに正面エントランスに乗りつけてるはずだ」
「ロバートらしいね」
 階段を降りてきたキングは、リョウと拳を軽くぶつけ合い、そのまま歩き出した。

      ◆◇◆◇◆

 この男と闘ったことでキングの生き方は大きく変わった。
 もしリョウと闘っていなければ――あそこで負けていなければ――今もキングはギャングの息のかかった店でバウンサーを続けていたかもしれない。あるいはもっと悪辣な犯罪に手を染めることになっていたかもしれない。
 弟のためとはいえ、犯罪組織に片足を突っ込んでいたキングが、こうしてまがりなりにもまっとうな格闘家として日の当たる場所に出られるようになったのは、やはりリョウとの闘いがきっかけだった。
「――それにしても、あんたの口からおごるなんて言葉が出るとは思わなかったよ」
「おかしいか?」
 大股で歩くキングの少し後ろを、キングよりもゆっくりとした足取りでリョウがついてくる。川沿いの遊歩道を冷ややかな風が吹き抜け、キングの前髪を揺らしていた。
「ああ、おかしいな」
 実際のところ、キングがくすりと笑ったのは、おごるといったリョウの発言にではなく、後ろから追いかけてくる下駄の足音がおかしかったからだった。
「ふふ……」
「何がそんなにおかしいんだ? ……俺にだってそれなりに稼ぎはあるんだぞ?」
 キングの含み笑いをどういう意味に受け取ったのか、リョウがふてくされたようにぼやく。その間も続く独特な足音に、キングは笑いをこらえることができなかった。
「――なら、今夜はとことんつき合ってもらうよ。ひさびさに羽根を伸ばしたい気分なんだ」
 振り返ることなくキングが見上げた空は、茜色を通り越し、深い群青色に無数の輝きをちりばめて下界を見下ろしていた。
                                ――完――