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とびだせどうぶつの森 QRコード置き場

ここにはおもに『とびだせどうぶつの森』でネオジオキャラになりきるためのマイデザイン用QRコードや、SNK関連の二次創作テキストなどを置いています。髪型や髪色、瞳の色については『とびだせどうぶつの森』の攻略Wikiを参照してください。

『Mr.ロジャースに手作りパイを』

二次小説 KOF

 

 シャワーの音がやんだ。
 使い込まれたソファの端に腰を降ろしていたレオナは、ふと顔を上げ、バスルームに通じるドアを見つめた。
 部屋の中に満ちる空気は、義父の部屋の匂いに似ているようで、やはりどこか違う。ここの空気のほうが少しだけ火薬臭いような気がするが、それもレオナの気のせいなのかもしれない。いずれにしろ、レオナにとっては馴染み深い、頼もしげな男の匂いだった。
「――――」

  ドアノブが回るのを見て、レオナはソファから腰を浮かせた。
「……おめえも気が利かねえなあ」
 バスローブ姿のラルフ・ジョーンズが、直立不動の姿勢で敬礼するレオナを一瞥してぼやいた。
「――キッチンは好きに使っていいっていったろうが。モーニングコーヒーの用意くらいできねえのか?」
「すでに午後です、大佐」
「俺は寝起きだっつーの! ってか、おまえが起こしたんだろ? だいたい、俺はきょうから休暇なんだぞ?」
 意外に長い黒髪の水気を拭きながら、ラルフはテーブルの上の封筒を見やった。レオナの視線も、おのずとそこへ向かう。
「……大佐が休暇でこの国を離れる前に、報告書の不備を修正させろと」
「隊長がそういったってか?」
「命令ですので」
「そのくらいおまえがちょちょっと――」
「直しておけというだろうが、絶対に本人に修正させろと」
「ちっ……」
 ラルフは聞こえよがしに舌打ちし、着替えのために寝室に引っ込んだ。

      ◆◇◆◇◆

 3日以上のまとまった休暇は半年ぶりになるだろうか。ちゃんとしたベッドで寝たのさえ何日ぶりか判らない激務の日々からようやく解放され、思うさま惰眠をむさぼろうとしていたところに、愛想のない戦友の来訪を受け、ラルフ・ジョーンズはすこぶる機嫌が悪かった。
「テロリストの銃弾に当たって死ぬ気はしねェが、アレだな、俺が死ぬとしたら冗談抜きに過労死かもしれねえな」
 上官の前では決して口にできない不満をもらし、真新しいシャツに袖を通していたラルフは、ふたたびドアのチャイムが鳴るのを聞いて耳を澄ました。
「……何だ? また客か?」
 この家は、テリー・ロジャースという偽名でラルフが借りているセーフハウスのひとつだった。近隣住民には海外出張の多いビジネスマンで通しているが、素性を隠し通すために、必要以上に親しい近所づき合いはしていない。だから、日に二度もこの家のチャイムが鳴ることなどまずありえないはずだった。
 ラルフが動きを止めて聞き耳を立てていると、玄関のほうで誰かがまくし立てているような声がした。
「……まさかあいつ、勝手に応対に出てんじゃねえだろうな!?」
 ミスター・ロジャースは独身のビジネスマンという“設定”である。その自宅に、どう見てもティーンエイジャーの少女がいるという状況を、噂好きの隣人がどう解釈するか――ラルフは慌てて着慣れないポロシャツをひっかぶり、寝室を飛び出した。
「ああ……っ」
 すでに時遅し――玄関脇の窓から、ちらちら何度も振り返りながら自宅へ戻っていく白人女性の姿が見えた。何かというとシェパードパイをお裾分けにやってくる隣人のミセス・マクドガルは、その実、留守がちのミスター・ロジャースが本当は何の仕事をしているのか、真実が知りたくてたまらないのであろう。
「……大佐」
 レオナは玄関のドアを背に、手にしていた小さな箱とタッパーを見つめたまま、ラルフにいった。
「今のは確か情報部の報告にあった――」
「ミセス・マクドガルだ!」
 ラルフはキッチンに向かい、冷蔵庫を開けてミネラルウォーターのボトルを取り出した。
「――世話好きの詮索好きだが、別に後ろ暗いところはないし、怪しげな組織との関係もいっさいない。むしろ俺には、おまえがあのご婦人と何を話したかのほうが気になるがな!」
「いえ、わたしがお聞きしたいのはそういうことではなく――」
「有無をいわせず押しつけられたタッパーの中身なら、たぶんシェパードパイだろ。味は悪くないから食べたきゃ食べていいぜ」
「そうではなくて――タッパーといっしょに荷物を渡されたのですが」
「何?」
 2リットルのボトルをあっという間に半分ほどに減らしたラルフは、眉間にしわを寄せてレオナを振り返った。
「どうやら手違いで隣家に届いていたもののようですが――何か通販で買いましたか?」
 そう尋ねたレオナの表情には、任務の時のような神妙さがあった。この少女はふだんから感情を表に出すことがほとんどないが、それでも幾度となく死線をともにくぐり抜けてきたラルフには、レオナが警戒心を強めているかどうかくらい、顔を見ればすぐにそれと判る。
 セーフハウスに送りつけられてきた心当たりのない荷物――となれば、まずは中身を疑ってかかるべきだろう。ことにラルフは敵が多い。そうした敵から日常生活を守るために用意したのがこういったセーフハウスだが、仇敵からその存在をいつまでも隠し通せるわけではなかった。
「……重さから考えて、中身が爆弾だとしても、この家を吹き飛ばすほどの威力はないと思われます」
 レオナは手にした箱を水平にたもったまま、淡々と告げた。
「やれやれ……もしそいつが本当に爆弾なら、俺の休暇はパーだな。誰の仕業か判らんが、俺を殺すつもりで送りつけてきたのなら大成功だぜ」
 溜息混じりに肩をすくめたラルフは、レオナの持つ箱に手を伸ばした。
 だが、レオナはそれに合わせて一歩下がった。
「……何だよ?」
「危険です。もし本当に爆弾だったら――」
「判ってるよ」
「わたしから可能なかぎり離れてください。それと、すみやかに爆弾処理班を」
「はァ!?」
「この荷物を受け取ってしまったのはわたしです。大佐まで危ない橋を渡る必要は――」
「だからおめえが責任取って、なるべく衝撃をあたえないようにそうやって突っ立ってるってか?」
「はい。処理班が到着するまでは」
「いや、まあ、セオリーとしては正しいのかもしれねェがよ」
 ラルフは無造作にレオナに近づいて壁際まで追い詰めると、タッパーごとくだんの箱を取り上げた。
 あの隣人が無造作に運んでくる最中に爆発しなかったということは、震動センサーやジャイロセンサーと連動して起爆する爆弾とは思えない。かなり厳重に梱包されているところから見て、おそらく開封すると爆発するタイプだろう。
 ラルフはふたたびキッチンに入ると、隅に置かれたゴミ箱を開け、その中にいわくつきの荷をそっとしまった。
「……こいつに入れとけばとりあえずいいだろ」
「何です?」
「ちょっと前にロンドンで買ってきた最新式のゴミ箱だ」
 ゴミ箱を閉じ、ラルフはレオナをうながしてキッチンを出ると、タッパーを開けて中身を覗き込んだ。
「……やっぱシェパードパイか」
「大佐」
「は? 何だ?」
「本部に連絡は?」
「今するよ」
 ソファに座ってシェパードパイを食べながら、ラルフはスマートフォンを取り出した。
「――もしもし、クラークか?」
『何です、大佐? 休暇じゃなかったんですか?』
「その前にちょっとな」
 スマートフォンハンズフリーに切り替え、テーブルの上に置いたラルフは、レオナに目配りをして、外から見える窓のカーテンを閉めさせた。
「きのう、ウチのお隣さんの玄関に荷物を置いてったヤツを特定してくれ。そのへんに監視カメラがあるだろ?」
『そりゃありますが――いったい何なんです?』
「誰かがお隣さん経由でウチに不審な荷物を押しつけてったんだが」
『――冗談じゃなさそうですね』
 スピーカー越しのクラークの声から笑いが消えた。
『処理班を送ります』
「処理班は後回しでいい。それより送り主の特定を急いでくれ。……俺の勘なんだが、こいつはプロの仕業じゃねえ。素人臭い」
『素人に命を狙われる覚えがあるんですか?』
「だからよ、俺を恨んでる人間が、ひとり残らず爆発物のプロってわけじゃねえだろ? 殺意はあってもウデがイマイチの人間とかよ」
 ラルフはそれからクラークにあれこれ指示を出してから電話を切った。
「大佐」
 カーテンの隙間から外を窺っていたレオナが、戦友たちの通話が終わるのを待って声をかけた。
「……心当たりは?」
「ありすぎて困るんだが――それこそその報告書にある作戦で、網にかからずに野放しになってる大物がひとりいる。怪しいといやぁそいつが一番怪しいかもな」

 テーブルの上の封筒をフォークでつつき、ラルフは唇をゆがめた。

      ◆◇◆◇◆

 テリー・ロジャース氏の自宅で小さな爆発が起こったのは、その日の夜のことだった。

      ◆◇◆◇◆

 冷たい雨がそぼ降る日、すべてが灰色に沈む中で、葬儀はしめやかに執りおこなわれているようだった。郊外の墓地には黒い傘の花がいくつも咲いており、死者を悼む鐘の音がおごそかに鳴り響いていた。
「…………」
 聞くともなく聞いた話によれば、傭兵になる前は軍で大佐にまで登り詰め、大統領から勲章までもらったことがあるという。そんなかつての英雄の葬儀にしては、参列者はさして多くなかった。仕事柄、家族が持てなかったのかもしれない。
 だが、そのことで哀れをもよおしたりはしなかった。彼女にとって、あの男は夫や息子たちの仇であり、憎むべき敵でしかなかった。そして今、彼女は見事に復讐を遂げたのである。むしろ喝采をあげたい気分だった。
「お、伯母さん、そろそろ離れたほうがいいんじゃ――」
 キャデラックの運転席に座っていたグェンが、不安げなまなざしをミラー越しに投げかけてきた。
「まだだよ」
 ファムは軽くグェンを睨みつけ、ふたたび双眼鏡を目に当てた。墓地では神父による祈りが続いている。
「ですが……もし連中に見つかったら、たっ、ただじゃすまないですよ」
 ファムの甥に当たるグェンは、生来の気弱さのせいで、彼女の夫や息子たちがしていたような“ビジネス”を手伝えなかった。その気の弱さがさいわいしたというべきか――夫たちのアジトが急襲されたあの日、ファムは豪華客船に乗ってヨーロッパを旅しており、その身の回りの世話をするために同道していたおかげで、グェンも死をまぬがれたのは、何とも皮肉なことではある。
 この柔弱な甥が生き延びて、どうして自分の夫や息子たちが死ななければならないのか――そういう腹立ちもあったが、さりとて今のファムにとってはもはやグェンが唯一の身内だった。
「……できることなら、あそこにも爆弾を投げ込んでやりたいくらいだよ」
 拳を握り締め、ファムは膝を叩いた。
「も、もう無茶なことはやめようよ! 伯父さんたちを殺したって男は吹っ飛んで死んだんだろ!? なら、早いところ国へ――」
 ファムの呟きに、グェンがバックシートのほうへ身を乗り出してきた、まさにその時だった。
 雨で曇った助手席側のウインドウがこつこつと叩かれた。
「!」
 ウインドウの向こうに小柄なシルエットがぼんやり浮かんでいる。傘をさした少女のようだった。
 ファムは静かに嘆息すると、ボタンを押してパワーウインドウを下げた。
「――何かしら、お嬢さん?」
 キャデラックの隣に立っていたのは、ブラウンの髪の喪服姿の少女だった。もしかするとあの男の数少ない身内だろうか。その哀しむ顔を見たくて、ファムはわざわざ窓を開けてしまったのかもしれない。あとから考えれば、それはあまりに軽率すぎた。
「マダム・ファム――ファム・チ・ミン・チャウ?」
 まだ一〇代にしか見えない少女は、彼女が知るはずのないファムの本名をいい当て、くすりと小さく笑った。
「――――」
 その瞬間、目の前にいるのがただの少女ではないと気づいたファムは、双眼鏡を放り出すと同時に、コートのポケットから銃を引き抜こうとした。
「葬儀はニセモノでも、ここが墓地であることに変わりはないわ……銃を使わせないで」
 少女の手が素早く動き、ファムの手首を掴んで一気にキャデラックから引きずり出した。やはりただの少女とは思えないすさまじい力だった。
「ぐっ――」
「おっ、伯母さん!? ――ぎゃあ!」
 濡れたアスファルトに放り出されたファムを見て、グェンが慌てて運転席から飛び出してきたが、それもすぐに別の少女によって取り押さえられてしまった。
 両腕を背中のほうにひねられ、動きを封じられたファムは、どうにか首だけをもたげて少女を睨みつけた。
「あ、あなた、今――何が偽物ですって!?」
「あそこでおこなわれている葬儀がニセモノだといったの」
「な……?」
「大佐は死んでないわ」
 ファムの両手を手錠で拘束した少女は、道の向こうの墓地を見やって溜息をついた。
「――大佐の自宅で爆発騒ぎがあったと聞いて、あなたが確認のためにすぐに現れてくれれば、こんな茶番までする必要はなかったのに」
 遠くから無数の足音が近づいてくる。少女の言葉を呆然と聞いていたファムは、自分の復讐が失敗に終わっていたのだということを、そこでようやく知ったのだった。

      ◆◇◆◇◆

 自分のセーフハウスから運び出されていくゴミ箱の残骸を眺め、ラルフは聞こえよがしにぼやいた。
「あ~あ……イギリスからの輸送費もコミで一〇〇〇ドル以上したんだぜ、あれでも?」
「ちゃんと一〇〇〇ドルの価値はあったんでしょう?」
「そりゃまあな。アレがなきゃあキッチンが吹っ飛んでた」
 ラルフがキッチンのゴミ箱にしまい込んだ差出人不明の小包は、ラルフがシェパードパイを食べ終わる前に爆発した。どうやら時限式の爆弾だったらしい。
 にもかかわらず、キッチンの一部を焦がしただけですんだのは、イギリス製の対爆ゴミ箱のおかげだった。
「マダム、現れたそうですよ。ウィップが拘束したそうです」
 ハマーの運転席に座っていたクラークが、通信用のヘッドセットをはずして呟いた。
「――大佐が爆弾で吹っ飛んだって偽のニュースを流しても動かなかったのに、やけにあっさりと尻尾を掴ませましたね」
「マダムの旦那や息子を射殺したのは俺だからな。仇の葬式だけはその目で見届けたかったのかもしれねえ。そのへんの心境も今後の取り調べで吐くかもしれんが――ま、俺にとっちゃどうでもいいハナシだ」
 シートを大きくリクライニングさせ、ラルフは目を細めた。
 相手が悪人とはいえ、人間である以上は家族があり、彼らの恨みを買うこともある。だからこそラルフたちは私生活をおおい隠し、こうしてセーフハウスを用意もするのである。
「それだっていずれはバレちまうしなあ」
 雨の中、情報部の人間たちが、運送業者をよそおってテリー・ロジャース氏の家から荷物を運び出している。ほとんど被害がなかったとはいえ、爆弾騒ぎがあった以上、もうこのセーフハウスは使えない。情報部にまたあらたな家をどこかに手配してもらうしかなかった。
「――お隣さんにはついにお返しできずじまいだったし」
「何をです?」
「これがけっこううまいんだよ、シェパードパイ」
 防弾ガラス越しに、ラルフはマクドガル家を見やった。物見高いミセス・マクドガルは、玄関ポーチにまで顔を出し、騒動の真相を聞きたそうにしていたが、情報部の面々から返ってくる答えなど、「私たちは何も知りません」以外にありえない。
 隣人の視線から逃れるかのように、ラルフはずるりとシートに深く身をうずめて天井を見上げた。
「もういい、出してくれ」
「了解」
 クラークがアクセルを踏み込み、ハマーをスタートさせた。
 正直なところ、ラルフにとってはあのセーフハウスのベッドより、このハマーのシートのほうがよほど落ち着ける。この稼業を続けているかぎり、ラルフたちにおだやかな日常などありえないのかもしれない。
                                ――完――