とびだせどうぶつの森 QRコード置き場

ここにはおもに『とびだせどうぶつの森』でネオジオキャラになりきるためのマイデザイン用QRコードや、SNK関連の二次創作テキストなどを置いています。髪型や髪色、瞳の色については『とびだせどうぶつの森』の攻略Wikiを参照してください。

『脱走組と落第組』

 

 6月6日――。
 その日、ランチタイムには少し遅い時間にカサブランカに現れたソワレ・メイラは、入り口のドアを開けて顔だけを覗かせ、店内の様子をそっと窺った。
「……何をしてるんだ、ソワレ?」
 モップを持って店の床を磨いていたギャラガーが、挙動不審なソワレに気づいて怪訝そうな表情を浮かべた。
「あ、兄貴は……?」
「アルバ? いや、きょうはまだ会ってない。ノエルは会ったか?」
「オレも見てねえな」
 もともと酒を飲ませるだけでたいしたフードメニューのないこの店では、当然、ランチ営業もしていない。今はまだ開店準備中で、店主のデュードとそれを手伝うギャラガーとノエルのほかに誰もいなかった。
「そうか……いないか」
 アルバの不在を確認すると、ソワレはあからさまに胸を撫で下ろして店内に入り込んだ。

 「……確かきょうはアンの学校の面談に行っているはずだ」
 カウンターの内側でグラスを磨いていたデュードが珍しく口を開いた。
「そろろろ戻ってくると思うが、何か急用なのか?」
「い、いや、別に兄貴に用事ってわけじゃねえんだけど、もしここで鉢合わせたらマズいしよ……」
「はぁ?」
「と、とにかく、兄貴がいねえうちに、ノエルかギャラガーか、どっちでもいいからクルマ出してくれねぇか? セントラルシティの銀行まで行きたいんだよ!」
「おっ? ついに銀行強盗でもする気になったのか?」
「そんなんじゃねえよ! ……ほら、きょうってオレたちの誕生日だろ?」
「ああ……そういえばそうだったな」
「アルバが派手にやるなっていうから、毎年おまえらの誕生日だけはパーティーやらねえもんなあ」
〈サンズ・オブ・フェイト〉のメンバーたちの誕生日は盛大に祝うが、リーダーである自分たちには必要ない――それが今のリーダーであるアルバの意向だった。いかにも生真面目なアルバらしいいいようだった。
 年代物のジュークボックスを磨いていたノエルが、意地の悪そうな笑みを浮かべてソワレを見やった。
「もしかしておまえ……そうか、オレたちがうらやましいのか? 真面目人間のアルバにつき合ってパーティーを開いてもらえないから、それが不満なんだな?」
「不満も何も、そもそもオレたちには自分の誕生日を祝うなんて習慣自体がなかったしな」
 ドイツに生まれ、両親を亡くして3歳で放り込まれた施設を飛び出したあと、14歳でサウスタウンに流れ着くまで、アルバとソワレはまともな家庭というものを知らなかった。だから、誕生日にパーティーを開くことの意味というものも、実はよく判っていない。
「――いや、パーティーなんてのはどうでもいいんだよ! オレたち何かあるとすぐに集まって騒いでるし、要するに毎日パーティーしてるようなもんだろ?」
「そりゃあ……まあ、そうともいえるが」
「問題は兄貴へのプレゼントなんだよ!」
「アルバへのプレゼント?」
 綺麗に生え揃った顎鬚を撫でながら、ギャラガーはノエルと顔を見合わせて首をかしげた。
「確かおまえたちは、兄弟の間でプレゼントのやり取りはしないっていってなかったか? 以前、アルバがそんなようなこといってた気がするが」
「ってかよー、そもそもソワレが誰かにプレゼントを贈ってるところなんか見たことねえぜ、オレ」
「そういわれてみれば……俺もソワレから何かもらった記憶がないな」
「おっ、おまえらはいいんだよ、おまえらは!」
 ギャラガーとノエルの視線が次第に冷たくなってきたのを感じ、ソワレはテーブルを叩いてごまかそうとした。しかし、アルバほど生真面目ではないにしても、〈サンズ・オブ・フェイト〉のサブリーダーを務めるギャラガーは、ちゃらんぽらんなソワレを許してくれなかった。
「あのなぁ、ソワレ……おれたちにはともかく、せめてアンには何か用意してやれよ。アルバは毎年アクセサリーとか服とか、ちゃんとしたプレゼントを贈ってるぞ?」
「う……!」
 溜息混じりのギャラガーのセリフに、ソワレは言葉を詰まらせた。
 ソワレたちのアパートの管理人をやってくれているアンは、メンバー全員にとっての可愛い妹のようなものだった。そのせいもあって、毎年アンの誕生日にはみんな気合を入れてプレゼントを用意するが、ソワレはいつも金欠でろくなものが用意できない。結果として、毎年アルバが選んだものをふたりからのプレゼントとして贈っている。
「……そういやよ、アルバはああいう女物の服とか、どうやって選んでるんだ? 大学で勉強すれば判るってもんでもねえよなあ?」
「やっぱりアレだろ、実はみんなに秘密でカノジョとかいるんじゃないか? こう……年上の、美人の大学講師とか」
「ああ!? 何だよ、じゃあオレも大学行けばよかったぜ!」
「おっ、おまえら! 少しはオレの話を真面目に聞け!」
 話がどんどん脱線していくギャラガーとノエルの頭をひっぱたき、ソワレは大きく床を踏み鳴らした。
 その直後、カウンターの内側から出てきたデュードが、無言のまま三人の脳天を殴りつけ、有無をいわせず店から放り出した。

      ◆◇◆◇◆

 カサブランカの前で膝をかかえて座り込み、まだひりつく脳天をさすりながら、ソワレは小さな声でいった。
「いいか? オレが兄貴にプレゼントを渡さないのは確かに金がないからだ! だがな、兄貴がオレにプレゼントを用意しないのは、兄貴に何も返してやれないオレに恥をかかせないためなんだよ! だから兄貴はオレたちの間でプレゼントのやり取りはなしにしようっていってくれてんだ!」
「いや、そこはおまえが力説することじゃないだろ。そんなこととっくに判ってるって」
「さすがはアルバ、若いのに人間ができてるっつーか……」
「まったくだ。それに引き替えソワレ、おまえときたら……」
「っつーか、唯一の肉親にプレゼント買う金ぐらいキープしとけよ、ったく……ホントいつまでたってもダメダメだな」
「……とりあえずおまえらは、ふたり揃ってオレを糾弾するのをやめろ」
「けどよー、結局この話ってアレだろ? オレたちに金貸してくれってオチなんだろ?」
「あのなぁ、ソワレ」
 尻についたほこりをはたいて立ち上がったギャラガーは、小さく嘆息してソワレにいった。
「――アルバにプレゼントがしたいのならちゃんと自分で稼げ。おれたちから金を借りてプレゼントしたことがアルバにばれたら、かえっておまえが叱られかねないぞ?」
「つーか、そもそもオレ、人に貸すほど金持ってねーしなあ」
「いや、だから人の話は最後まで聞けって! 誰も金貸せなんていってないだろ!」
「違うのか?」
「違う! 金はちゃんと自分で稼いだ!」
「え!? い、いつの間に!? 最近おまえ、ストリートに出てなかったじゃねーかよ!」
 ノエルはやにわに立ち上がり、ソワレの襟首を掴んでがくがくと揺さぶった。
「――おまえがどっかでファイトしてるって知ってたら、オレだってなけなしの金をあんな見かけ倒しのファイターにゃ賭けなかったのに……!」
「ち、違うって! べっ、別にストリートファイトで稼いでたわけじゃねえんだよ!」
 サウスタウンの各所で週末ごとにおこなわれているストリートファイトは、ソワレにとっては実力を磨くための恰好の戦場であると同時に、ファイトマネーを稼ぐ職場でもあった。
 しかし、ソワレの強さが知れ渡るにしたがって、彼と闘おうというファイターの数は次第に減り、オッズも極端に下がっていった。強くなりすぎたがゆえに、マッチメイクしにくくなってしまったのである。
「それじゃどうやって稼いだんだ?」
「へへっ……ナイトクラブの用心棒だよ。オレの強さを生かすにはちょうどいい仕事だろ? 兄貴が昔バイトしてた店に頼み込んで、期間限定ではたらかせてもらったんだ」
 ネクタイを締める真似をして、ソワレはふふんと鼻を鳴らした。
「ぱりっとした黒服着てよ、1週間、酔っ払いどもを相手に見事に勤め上げたのさ。兄貴のプレゼントを買うには充分な稼ぎになったぜ」
「……意外だな。正直、おまえが誰かに使われるような仕事なんてやるとは思わなかったよ、おれは」
「いざやってみりゃあ簡単なモンだったぜ? 礼儀のなってねえ酔っ払いを店から蹴り出すだけで仕事になるんだからな」
「じゃ、銀行がどうのって話は――」
「ああ、銀行で金下ろしてプレゼント買いたいんだよ。どっちでもいいからクルマ出してくれよ」
「えー?」
「えー? って何だよ、ノエル!? そのイヤそうな顔は!?」
「だってソワレ、いっつもガス代出さねーじゃん?」
「ちょこっとセントラルシティまで行くだけだろ! そのくらいでいちいちガス代請求する気か、おまえ!? ってか、燃費が悪すぎんだよ、おまえのポンコツは!」
ポンティアックだ! ポンコツっていうな! ――こうなりゃぜってェ送ってやらねえからな、オレは!」
 ソワレの鼻の頭を人差し指でぐりぐりとやったノエルは、眉を吊り上げて店の中へ引っ込んでしまった。
「……ギャラガー?」
「とりあえず、ガス代は貸しにしといてやるよ。アルバへのプレゼントを買って、それでもまだ金が残ってたらおれのサンダーバードを満タンにする――それでいいな?」
 ギャラガーはポケットから取り出したキーをちゃらりと揺らし、ソワレに笑いかけた。

      ◆◇◆◇◆

「――それじゃ、おれはデュードに頼まれた買い物をすませてくる。4時にまたここへ戻ってくるから、それまでにプレゼント買っとけよ?」
「4時? あと1時間もねえじゃねえか」
「店を開ける時間を考えたらそれがギリギリなんだよ。もし間に合わなくてもおれは待たないからな。自力で帰れ」
 そんな薄情なセリフを残して、ギャラガーのサンダーバードが走り去っていく。銀行の前で降ろしてもらえただけでもラッキーだっとと考えを切り替え、ソワレは石造りの階段を上がっていった。
 もうすぐ窓口が閉まってしまう時間とあって、銀行はそれなりに混み合っていた。馬鹿正直に窓口で預金を下ろしていたら、プレゼントを買う時間など確保できないだろう。ソファに腰を降ろして自分の順番を待つ人々を横目に、ソワレはATMコーナーへと向かった。
「さーてと……」
 入金されたばかりのバイト代を下ろそうとATMを操作したソワレは、しかし、すぐに吐き出されたキャッシュカードを見て眉をひそめた。
「――あれ?」
 1週間分のバイト代がすでに振り込まれているはずなのに、画面には残高不足で引き出せないと表示されている。あらためて残高を確認したソワレは、慌てて公衆電話に飛びつき、バイト先のナイトクラブに連絡を入れた。
『――ハロー?』
「ハローじゃねえだろ! おい、いったいどうなってんだ!? バイト代が振り込まれてねえぞ!?」
『ソワレくんかい? バイト代がどうしたって?』
「だから振り込まれてねえんだよ!」
『そんなはずはないだろう?』
「それはこっちのセリフだ!」
 ソワレの手にある明細には、残高が72ドル50セントと記されている。アルバへのプレゼントを買うどころの話ではない。
「ふざけんなよ、おい! 1週間はたらいて70ドルってハナシはねえだろうが! 労働局に駆け込むぞ!?」
『きみねえ……』
 電話の向こうで、クラブのオーナーが心底呆れたように溜息をもらすのが聞こえた。
『――その1週間の勤務の間に、きみがウチにどれだけの損害を出したか判ってる?』
「損害だと!?」
『そうだよ。きみの仕事はあくまで入店者のIDチェックと悪酔いした客を締め出すことでしょう?』
「そ、そこはちゃんとやっただろ!」
 バイトをしていた1週間、ソワレはナイトクラブのエントランスに立って、年齢をごまかして入店しようとするティーンエイジャーを追い払い、悪酔いして荒れ始めた客を店外に叩き出してきた。一度としてそれを見逃したことはない。
『しかしきみね、叩き出す前にかならずひと暴れしたでしょう? 引きずって店から放り出すだけでいいのに、どうしてまず飛び蹴りを食らわせる必要があるんだね?』
「そっ、それは……」
 蹴り技は俺のアイデンティティだから――とはいえず、ソワレは口ごもってしまった。
『確かにきみは酔っ払いをみんな黙らせてくれたよ。しかし、そのおかげで壁にいくつ穴が開いたと思う? テーブルがいくつ壊れて、グラスがいくつ割れて、無関係のお客さまが何人巻き添えになったと思う?』
「ふっ、不可――」
『不可抗力じゃあないでしょ、きみ!』
 ソワレのセリフをさえぎり、オーナーが声を荒げた。
『以前、アルバくんにお願いした時にはもっとスマートにやってくれたもんだがね! その弟というからきみにお願いしたのに、とんだ期待はずれだよ!』
「ちょっ……ちょっと待て、待ってくれよ! そ、それじゃこの、100ドルちょっとの入金は――」
『保険でまかなえない損失分についてはきみのバイト代から引かせてもらったよ。差し引き70ドルがきみの取り分ということだ』
「そ、そんなのアリかよ!?」
『これでもかなり大目に見ているんだよ? きみは初日だけで100ドル近い未開封のバーボンを3本も割ってるんだ。正直、保険金が下りたって取り戻せない損失が出てるんだよ、こっちには』
「う……!」
 恨みがましいオーナーの言葉にソワレは絶句した。
『とにかくそういうことだから、これで納得してもらうよ。もしまた騒ぎ立てるようなことがあれば、アルバくんに間に入ってもらおう。彼ならどっちのいいぶんが正しいか、贔屓せずに判断してくれるだろうさ』
「お、おい、ちょっと――」
 それ以上食い下がることもできないまま、電話は無情にも切られてしまった。
「…………」
 しばらく呆然としていたソワレは、手にしていた受話器を戻してフォーンブースを出ると、ふたたびATMコーナーに戻った。
「おいおいおい……どうすんだ、これ……?」
 一方的にバイト代から損失分を差し引いたオーナーには腹が立つが、だからといって、これから店に乗り込んで交渉するわけにもいかない。おそらく正式に法律に照らして処理をすれば、むしろソワレのほうが弁償させられることになるだろう。何より、もしこのことがアルバの耳に入れば、サプライズでプレゼントを用意するどころか、逆にバイト先での乱闘のことで叱られるのは目に見えている。
「やべえ……どうする? 今年もやっぱプレゼントなしか!? それともなけなしの70ドルで――いや、ありえねえ! ジュニアハイスクールのガキだってもうちょいマシなもの贈るぞ!」
 とはいえ、ここでいくら考え込んでいても預金額が急に増えるわけではない。ソワレが途方に暮れていると、少し離れたところにあるATMの前で、誰かが大声で通話しているのが聞こえてきた。
「ところかまわず電話かけてんじゃねえよ、ったく……観光客か?」
 携帯電話でしゃべっているのは黒髪の東洋人のようだった。もれ聞こえてくるのはどうやら日本語らしい。顔は見えないが、後ろ姿を見るかぎり、身長はソワレよりやや低い程度で、均整の取れた体格をしている。
「だからよ、10万円! 1000ドル! 無理なら500ドルでいいから! ホント、マジでやべえんだよ、ホテル代もメシ代もなくなっちまって……と、とりあえず腹いっぱい食ってぐっすり眠れば、この街ならストリートファイトで稼げるし――お、おい、ユキ!? ちょ、切るな切るな切るな!」
 その日本語がどういう意味なのかまったく理解できなかったが、今のソワレには声が大きいというだけで腹が立つ。ひくっと震えたこめかみのあたりを押さえ、ソワレはことさら低く抑えた声でその東洋人の若者に話しかけた。
「なあ……お国じゃどうだか知らねえけどな、こういうところじゃ静かにするのがマナーってもんだぜ?」
「チッ……ユキのヤツ、ありゃあ完全に寝ぼけてたな。日本じゃまだ明け方だろうし、あとでまたかけ直すか――」
「おい、おまえ! おまえにいってんだよ!」
「は?」
 ソワレに肩を叩かれ、ようやく自分が話しかけられていると気づいたのか、東洋人は携帯電話をポケットにしまって振り返った。
「あ!?」
「ああ!?」
 たがいに顔を見合わせ、ふたりは同時に驚きの声をあげた。ソワレは彼の顔に見覚えがあり、そしておそらく青年のほうでも、ソワレの顔に見覚えがあったのだろう。
「お、おまえ――!」
「えーと、確か……ふ、双子のデカいほう!」
「ソワレ・メイラだ! 人の名前くらい覚えとけ!」
「そんじゃあアンタは俺の名前を憶えてんのかよ!?」
 なかなか流暢な英語で聞き返してきた若者の名前は、確か――。
「……キョウ! そっ、そう、京だ! 京だよな!? 合ってるだろ!?」
「アンタ……下の名前しか覚えてねえだろ……?」
「はっ、発音しにくいんだよ、おまえの名字は! く、きゅ、きさ、キサラギ……?」
「どっかの忍者と勘違いしてねぇか? 俺の名前は草薙だ、草薙京!」
「そ、そうそう、キョウ・クサナギ! もちろん覚えてたよ、覚えてるに決まってるだろ?」
 草薙京とは以前の大会で顔を合わせている。手から炎を出す格闘家など、そう簡単に忘れるわけがない。
「はっはっは! 奇遇だな、おい!」
 慌ててにこやかな笑みを浮かべたソワレは、京の手を取って握手をしながら、親しげに彼の肩を抱いた。
「このサウスタウンへは何をしに来たんだ? おまえにかぎって留学ってことはねえし……やっぱり観光か? ん?」
「……アンタ、今さらっと失礼なこといわなかったか?」
「細かいことは気にすんなよ! それよりもよ、せっかくここで会ったんだ、よければオレがこの街の名所を案内してやるぜ?」
「あいにくだがノーサンキューだぜ。別に俺は観光のために来てるわけじゃないんでな」
「じゃあ何なんだよ?」
「武者修行だよ、武者修行。日本にゃなかなか俺の相手になるヤツがいねえんでな。こうして世界中を旅して腕を磨いてんのさ」
 京はソワレの腕を振りほどき、ナップザックひとつにまとめられた荷物をしめした。
「へえ……じゃ、さっき何か日本語でわめいてたみてぇだけど、ありゃあいったい何だったんだ?」
「それは……じ、実はよ、この街まで来たはいいんだが、持ち合わせがなくなっちまってな。まあ、いつもみてぇに路上でファイトして稼げばいいんだが、とりあえず腹は減ってるし、ゆっくり風呂に浸かってやわらかいベッドで休みてえってのもあるし、それで、日本にいるカノジョに送金してもらおうと思ったんだが……」
 京に恋人がいると聞き、さらにソワレの苛立ちが増したが、それを顔に出してしまうにはまだ早い。笑顔がこわばりそうになるのを必死に抑え、ソワレは京に尋ねた。
「ひょっとして……断られたのか?」
「ああ。熟睡してるところを起こしちまったらしくて、まともに話も聞いてもらえねえうちに電話を切られちまった」
「つまり――おまえ、金持ってねえの?」
「まるっきりの文ナシってわけじゃねえけど……まあ、10ドルくらいなら」
「ノオオオオ!」
 京の告白を聞いて、ソワレは頭をかかえてその場にしゃがみ込んだ。
「おまえ、そこはどうにか食い下がって送金してもらうところだろ!? おかげで兄貴へのプレゼントが買えねえじゃねえか!」
「はあ? 俺がユキから送金してもらえねえのとアンタらのプレゼントと、いったいどういう関係があるってんだよ?」
「判んねえかな!? 要するにだよ、きょうはオレと兄貴の誕生日で、オレは兄貴にサプライズでプレゼントをしてやりてえけど金がない! だが、そこに偶然現れたおまえが観光案内の謝礼にオレに2000ドルくれて、オレはめでたくプレゼントを――」
「ちょっと待て、人の財布を勝手にあてにしてんじゃねーよ! どうして俺があんたに金をやらなきゃならねえんだ!? それも2000ドルって」
「だからいったろ!? オレは誕生日なの、きょう!」
「だからって2000ドルもくれてやる義理はねーな! そもそも俺は10ドルしか持ってねえってさっきいっただろ!? 俺のほうが金を借りたいくらいなんだよ!」
「おいこら、いっとくが、オレだって70ドルしか持ってねえし、絶対貸さねえからな!?」
「チッ……仕方ねえな。やっぱストリートファイトで稼ぐしかねえか」
「あー、無理無理」
 もはや立ち上がる気力も失せたソワレは、ATMの前に座り込んだまま、ひらひらと手を振った。
「――ファイトマネーが出るようなデカい試合が組まれるのは週末だけだからな」
「何? この街じゃ毎日どこかで試合が組まれてるんじゃねえのか?」
「ホントに路上での殴り合いならあるさ。ただ、そういうところじゃそもそも賭けの規模も小さいだろ? ちゃんとしたマッチメイカーがいてファイトマネーが支払われるわけじゃないから、結局そこで稼ぐには、自分自身に金を賭けて勝ち続けるしかないんだよ。……それとも、所持金10ドルからやる気か?」
 よくも悪くも、草薙京はKOFの常連として顔が知れ渡りすぎている。ソワレと同様、まず対戦相手を捜すのに苦労するだろう。10ドルの元手を100ドルにすることさえ難しい。
 テンガロンハットを目深にかぶり、ソワレは肩をすくめた。
「……だいたい、それで簡単に金が稼げるならオレが実行してるよ。最近じゃ名乗りを上げてくる対戦相手がいなくて週末も暇でな」
「だったらいっそ、俺とアンタで試合を組めばいいんじゃねえか?」
「…………」
 その提案に、ソワレがハットを浮かせて顔を上げると、不敵な表情を見せる京と目が合った。
「――そうだよ、俺とアンタが闘うってことになれば、デカいハコだってすぐに埋められるはずだぜ。ここはそういう街だろ?」
「確かにそうだが……それには仕切ってくれるプロモーターとリングが必要だぜ?」
「ここはアンタの地元だろ? 心当たりのひとつやふたつないのか?」
「ちょっと待てよ……」
 これまでソワレは上がれるリングがあればどこにでも上がってきた。誰の仕切りだろうとリングがどこだろうと、深くこだわったことはない。逆にいえば、特に懇意にしているプロモーターもいない。第一、会場を用意してまとまった数の客を集めるには、やはりどうしても時間がかかる。きょうこれからすぐにというのは難しい。
 ただ、興行としてでなければやりようはあるかもしれない。
「あんまり親しくはねえけど、もしかしたらってところがあるにはある」
「ホントか!? だったらすぐに連絡しろよ!」
「……電話番号知らねえんだ。ちょっと待ってろ」
 ソワレは慌てて立ち上がると、ふたたびフォーンブースへと駆け込み、電話帳を開いた。
「……A、B、C――O、P、P、えーと……」
 ソワレが電話帳をめくっていると、唐突に窓口のほうが騒がしくなった。荒々しい男たちの怒声と甲高い悲鳴、そして発砲音――。
「おい――!?」
 ソワレと京は咄嗟にその場に身を伏せた。
「ひょっとして銀行強盗か? さすがアメリカだな」
「おまえ……バカにしてんのか?」
「さすが銃社会だって感心してるんだよ」
 声をひそめたまま、ふたりはそっとフォーンブースから顔を出した。
 広いロビーには、まだ10人ほどの客が残っていた。そのほかに、フルフェイスのヘルメットをかぶったライダース姿の男たちが――見える範囲に――4人、これ見よがしに銃を手にしている。カウンターの奥と二階に何人の行員がいるかは確認できない。
「警備員が撃たれてるぜ。――おい、どうする?」
 強盗団の男たちは、肩を押さえた警備員と客たちを一か所に集めて人質に取り、行員に金の用意をさせている。それを見たソワレは、声をひそめて京にいった。
「あいつらじきにこっちも確認に来るぞ?」
「面倒に巻き込まれるのは御免だぜ」
「そいつはオレも同感だ。……が、このまま逃げるってのもな」
 ソワレはサウスタウンに跋扈していたギャングたちを力でまとめ上げた〈サンズ・オブ・フェイト〉の一員――それもリーダーを務めるアルバの双子の弟である。もしここでこっそり逃げ出したりしたら、グループの評判を落とすことにもなりかねない。
「――ま、おまえにゃ関係のないことだしな。オレが何とかするからどさくさにまぎれて逃げなよ」
 ソワレは京の肩を叩いて立ち上がった。
「何だよ、アンタ、何する気だ?」
「決まってるだろ? ここはオレたちの街なんだぜ? 目の前でおいたをしてる野郎どもを黙って見すごすわけにはいかねえんだよ」
「……なかなか面白そうな話じゃねえか」
 にっと笑った京の指先に、小さな炎がぽつりとともる。
「燃えるゴミと社会のゴミは、ちゃんと焼却処分しとかねえとな」
「やれやれ……怪我したとしても自己責任で頼むぜ?」
「アンタこそ、これにケリがついたら俺とのスペシャルマッチなんだ、ドジ踏まないでくれよ?」
 そういって、京は指先の炎を天井に向かってはじいた。
 数秒後、火災報知機がけたたましく鳴り始めたのを合図に、ソワレと京は同時にメインロビーへと飛び込んだ。

      ◆◇◆◇◆

 店の前の掃き掃除を終え、ネオンのスイッチを入れて戻ってきたノエルは、テレビのニュースを見て眉をひそめた。
「おいおいおい……銀行強盗だってよ! ここ、ソワレが連れてけっていったとこだぜ?」
「ああ。それで気になって、ギャラガーに電話をしていたんだが」
 デュードは渋い表情で溜息をついた。
「あちこち通行禁止になっているから、戻るのが少し遅れるといっていた」
「ソワレは?」
「判らん。……あいつは携帯を持っていないからな」
 デュードは口を閉ざしてニュース速報に見入った。
 報道によれば、1時間ほど前に発生した銀行強盗は、犯人グループ全員の逮捕によってすでに終息に向かっているという。さいわいにして死者はなく、犯人に肩を撃たれた警備員も命に別状はなく、ただ、善意の第三者によって取り押さえられる際、犯人たちが重傷を負ったということだけが繰り返しアナウンスされていた。
「……何だろ? 人質に逆襲されてボコボコにされたとか?」
「人質にソワレが混じっていれば、それもありえるかもしれんな」
 そう呟いて、デュードはノエルと顔を見合わせて笑った。だが、その笑いがやや乾いていたのは、それがあながち冗談ではすまされない可能性があると気づいたからだろう。

      ◆◇◆◇◆

 サウスタウンでもっとも有名なレストランのひとつであるパオパオカフェは、カポエラを広めるためにブラジルからやってきたリチャード・マイヤがオーナーを務める店で、本場のブラジル料理を堪能しながら、夜ごとステージに立つ格闘家たちの熱いファイトを観戦できることで知られている。ストリートファイトの街、サウスタウンにふさわしい店だった。
 もっとも、アルバ自身はほとんどパオパオカフェには縁がない。世間の人間がどう考えているのかはともかく、〈サンズ・オブ・フェイト〉のボスであるアルバには、いろいろとやらなければならないことがおおいのである。実際、ソワレからパオパオカフェの2号店に来てくれという連絡がなければ、ここを訪れることなど永遠になかったかもしれない。
「情熱的なベリンバウのリズム、か……確かに剥き出しの魂にうったえかけるような力強さを感じる」
 店に一歩足を踏み入れたアルバは、極彩色の空間に流れるラテンアメリカのリズムに軽い感銘を覚えた。
 まだ開店直後ということもあって、客の入りはさほどでもない。が、奥のカウンターへと向かうアルバの一挙手一投足に、客たちの視線が絡みついてくる。
「……?」
 スツールに腰を降ろし、アルバは自分の身体を見下ろした。上下とも肉厚のレザーのアイテムで揃えているのは、人によっては暑苦しく感じるかもしれないが、だからといってじろじろと奇異の視線を向けられるほどとも思えない。
「ようこそいらっしゃいませ。アルバ・メイラさん――ですね?」
 ドレッドヘアの若者がアルバのもとへやってきて、慇懃にあいさつした。
「あなたが店長の」
「どうかボブと呼んでください」
 ボブ・ウィルソン――初対面だが、アルバも名前だけは以前から聞いていた。パオパオカフェのオーナーであるリチャード・マイヤが見出したカポエラの天才で、その実力はあのテリー・ボガードも太鼓判を捺すほどだという。変則的なカポエラを使うソワレに対し、ボブのカポエラはまさに正統派で、その実力はすでにリチャードを超えているとさえ噂されていた。
「なぜ私のことを?」
「一度でもKOFに出場した格闘家の顔と名前は忘れません。……もっとも、たとえそれがなくても、アルバ・メイラを知らない格闘家は、この街にはいませんよ。ご自分で思っているより、あなたは有名なんです」
「そのせいか――」
 客たちの視線の意味を理解し、アルバは小さく笑った。
「何かお飲みになりますか?」
「あいにく、きょうは弟と待ち合わせでね」
「弟さんなら間もなくいらっしゃると思いますよ」
「……あなたは弟を知っているのか?」
「もちろんです。まだお会いしたことはありませんが。……ですからきょうはとても楽しみです。都合のつく知り合いにも声をかけておきました」
「……何?」
 今ひとつボブの言葉の意味が理解できず、アルバはサングラスの下で目を細めた。
「それは……どういう意味だろうか?」
「? 弟さんからお聞きになっていないんですか、今夜のこと?」
「いや、特には」
「そうでしたか。では、私から申し上げるのはやめておきましょう」
 ボブが意味ありげに微笑んだその時、フロアのざわめきが大きくなった。
「――ああ、さっそくいらっしゃいました」
 エントランスのほうを見やると、派手な色に染めたモヒカン頭の男と目つきのするどい革ジャンの女がこちらへやってくる。
「あれは確か――」
「ダックさんとマリーさんです。私がお呼びしました」
 ふたりとも、このサウスタウンとは縁の深い格闘家である。パオパオカフェにとっては常連ということになるのだろう。ふたりの来店にフロアの客たちのテンションが上がったのもうなずける。
 しかしその直後、彼らのざわめきを上から乱暴に塗り潰すかのように、聞き慣れた声が響き渡った。
「よう! 待たせたな、兄貴!」
「ソワレ――」
 周りからの注目を浴びるのが好きなソワレは、ことさら大きな声で自分の来訪を告げると、フロアの真ん中を突っ切ってまっすぐこちらに歩いてくる。
 以前からサウスタウンの路上で激しいファイトを展開してきたソワレは、ギャングとしてというより、むしろ格闘家としてこの街の住人に認知されている。そのソワレが、これまで縁のなかったパオパオカフェに初めて姿を見せたことで、彼らの興味が一気にソワレに集中するのは当然のことかもしれない。
 しかし、彼らがどよめいた理由の半分は、明らかにソワレのあとから現れた若者のせいだった。
「へえ……なかなか面白そうな店じゃねぇか」
 ソワレに続いて店に入ってきたのは、KOFのファンならその名を知らぬ者のない常連中の常連――日本チームのリーダー、草薙京その人だった。
 ソワレ・メイラと草薙京――このふたりがどうしていっしょに現れたのか、アルバにも判らなかった。もちろん、この場に居合わせた客たちにも判るまい。
 ただひとつはっきりしているのは、期せずしてこの店に今、世界的に名の知れた格闘家たちが集まっているということだった。
「――ヘイ、どういうことだよ、ボブ? こっちはメシ奢ってくれるっていうから来たんだぜェ?」
 勝手にカウンターの内側に入り込み、サーバーからジョッキにビールをそそぎながら、ダックがぼやくようにいった。その間も彼のゴーグル越しの視線は、そこに集まった格闘家たちの顔をさりげなく観察している。
「わたしもそういわれてのこのこ集まってきた口だけど……わたしたちを集めたかったのは、ホントはそっちの色男さんなんじゃない?」
「いやー、来てくれてホントに助かったぜ! さすがにカワイコちゃんのひとりくらいはいねえと、絵面が男臭くてイヤになっちまうだろ? ――って、こいつがいうからさぁ」
 冷ややかな表情のマリーに笑いかけ、ソワレは馴れ馴れしげに京の頭をぺたぺたと撫でた。
「おいっ! アンタ、人のせいにするんじゃねえよ! 俺はひと言もそんなこといってねえだろ!? 俺はただ、メシとベッドと――」
「何だァ? オマエも結局オレといっしょで食いモンに釣られたってワケか?」
「アンタといっしょにされたかねえな! こっちは武者修行の途中で、その……ちょっと手もと不如意になっただけで――」
 ごにょごにょと言葉を濁す京をじっと見つめていたアルバは、サングラスを押し上げ、
「きみの事情は判った。……だが、なぜソワレといっしょにいる?」
「いや、気づいたらこうなってたっていうか――」
「まあまあ、細かいことはいいじゃんか、な?」
 ソワレはアルバの肩に寄りかかり、京たちを順繰りに指差した。
「とにかく、ここにはメシに餓えた狼が何匹もいるわけだ。で、こちらの店長のボブくんが、ここのステージでファイトしてくれれば好きなものを何でもご馳走してくれるとおっしゃってる! つまり――」
「つまり? つまり何なんだ、ソワレ?」
「意外と鈍いな、兄貴も! こいつはオレからのプレゼントなんだって! ほら、たまには立場とか小難しい理屈とか抜きにして、思いっ切り闘ってみてぇって思ってんだろ? だからこうして、オレがメンツとステージを用意してやったんだよ!」
「実質的に用意したのは私ですけど」
「はっはっは! 細かいことは気にするなっていったろ、ボブくん!」
 ぼそりともらしたボブを軽く蹴飛ばし、ソワレは高らかに笑った。
「ちょうど6人いるし、お馴染みの3対3でどうだい? 兄貴の好きなようにチーム組んでいいぜ?」
「おい! 勝手にハナシを進めてんじゃねえよ!」
「いまさら何いってんだよ、京。おまえだって腹減ってんだろ? ちゃんとしたベッドで休みたいんだろ?」
「そ、そりゃあ……まあ」
「はたらかざる者食うべからずだぜ? それとも急に怖気づいたか?」
 ソワレが挑発するかのように京の鼻先に指を突きつける。眉間に気難しげなしわを寄せていた京も、そうまでいわれれば引き下がるわけにはいくまい。もとより、この場に闘うことが嫌いな人間などいないのである。
「面白ぇ……やってやろうじゃねえか! ただし、アンタとは絶対に組まねえからな!」
「ヘイ! オレたちの意見は無視かよォ?」
「別にわたしはかまわないわよ? 要するにお遊びでしょ? このところ仕事がなくて退屈してたし、実戦から遠ざかりすぎてると勘が鈍るし」
 軽くストレッチを始めたマリーを見て、ボブがアルバに意見を求めた。
「……ということですが、アルバさんはそれでかまいませんか?」
「ここの店長はあなただ。あなたがいいというのなら私に否はない。……要するに、きょうは店の奢りということだろう?」
「ええ」
 アルバと顔を見合わせてにっこり笑うボブに、ただひとり納得していないダックが噛みついた。
「ヘイ、ボブ! オメーまでオレを無視すんなよ! オレはまだやるなんてひとっ言もいって――」
「ダックさん、そろそろツケを払ってもらえますか?」
「ヘイメーン! さっそくチーム分けするぜェ! ストリートの王者、このダックさまと組みてェヤツは誰だ!? 早い者勝ちだぜェ!」
「……俺はアンタとも組みたくねえな」
「ちょっと待てよ! オレだってイヤだぜ? どうもこのモヒカンのオッサンとはリズムが合わないっていうか――」
「このガキども――」
 ジョッキを片手に早くもヒートアップしているダックを尻目に、アルバはボブにいった。
「店長、何か軽いものを頼む」
「いいんですか? これから闘うのに?」
「夜はまだ始まったばかりだ。まずは腹ごしらえといこう。……それに、店としても客を集める時間があったほうがいいだろう?」
「そうですね。みなさんの名前を出せば、今夜はアルコールの在庫が底を尽くかもしれません」
「どのみちあの様子じゃ、チームを決める前にシングル戦が始まりそうだし……ね? ボブ、わたしにはいつものをお願い」
「承知いたしました」
 アルバの隣に腰を降ろし、マリーは面白そうにソワレたちの口論を眺めている。確かにこのままでは、フロアがギャラリーで埋まる前に、3人での乱闘が始まりかねない。
「まあ見ててください」
 おいしそうな湯気を立ち昇らせるシュラスコを用意してきたボブが、肉の塊にナイフをすべらせながら、ソワレたちに声をかけた。
「――みなさん、まずはお食事でもどうです? おなかが空いてるんじゃありませんか?」
「――――」
 たがいに掴み合いを初めていた3人は、ボブの言葉と、何よりもスパイスの効いた肉の匂いに心を惹かれたのか、吸い寄せられるようにカウンター席に着いた。
「ヘイ、小僧ども! これ食ったらケリつけてやるから覚えとけよォ!」
「それはこっちのセリフだぜ! シュミの悪いモヒカンしやがって! ……どうでもいいけどうまいな、これ」
「腹が減って実力が出ないなんてのはナシだからな。オレの奢りだ、しっかり食っとけよ」
「おまえの奢りじゃないだろう?」
 調子に乗っているソワレの脇腹を小突き、アルバは小さく笑った。
 3歳の時に両親が死んで施設に入り、そこを飛び出して14でサウスタウンに流れ着くまで、アルバとソワレに家庭らしい家庭はなかった。だから、家族で誕生日を祝ったという記憶もないし、そもそもそれを哀しいと感じたこともない。
 しかし、こんな誕生日もたまには悪くない。
 年甲斐もなくわくわくしていることを誰にも悟られないよう、アルバはサングラスを押し上げ、カトラリーを手に取った。